電撃辞任でファンも選手も「中嶋ロス」歴史に残る名将、オリックス・中嶋聡が選手時代に味わった「知られざる苦悩」
日本シリーズで見せた「ナカジマジック」の恐ろしさ
長谷川:対戦で感じた怖さというと、まず驚いたのは1年目と2年目でスターティングメンバーがガラッと変わっていたこと。ケガや不調というわけではないのに、前年のメンバーがベンチにいる。対するヤクルトは、基本的には2年連続同じメンバー。マクガフがいなくなった代わりに田口麗斗がいるとか、そういうレベルです。 投手の継投も大胆に変えてきました。たとえば初戦でクローザーの平野佳寿が打たれたら、2戦目では阿部翔太を起用。で、阿部も打たれると4戦目ではワゲスパックと、毎回クローザーを変えてきた。4戦目に2番手で出場した宇田川はその後WBC代表に選出されましたけど、2021年は一軍で出ていませんでした。 村瀬:普通だとありえないですよね。 長谷川:結局、ワゲスパックが良かったので5戦目もワゲスで勝つんだけど、ヤクルトはマクガフと心中して、結局打たれて負けちゃうんです。これは別に高津さんがどうとかじゃなくて、中嶋さんの戦術が柔軟すぎるんですよね。もはや怖かったです。 村瀬:その辺りの起用法も、選手が意気に感じるようなことをされるんですよね。 長谷川:まだ伸びしろを残している段階でも、若手を積極的に使っていくことで周囲の選手にも刺激を与えて、結果的に全員がレベルアップしていくという体制ができている。だから主砲の吉田正尚がメジャーに移籍した後も優勝できた。不足したところをちゃんと自前で補っていました。
選手のことをいつも第一に考えていた
村瀬:オリックスが2023年に3連覇したときに、MBSのアナウンサーが中嶋さんへの優勝インタビューで阪神に関する質問ばかりして怒らせちゃったことがあったじゃないですか。優勝インタビューであんなに怒っている人を見たことないですよ(笑)。 自チームの選手たちをないがしろにされたからですよね。選手のことをいつも第一に考えていらっしゃることが伺えますよね。 今年の京セラドーム最終戦でも、引退を表明していた小田裕也と比嘉幹貴に、無茶ぶりだけどその場でスピーチをさせていました。監督自身のスピーチの時間を削ってでもね。そういうところが、選手からも愛され、信用されてきた部分ですよね。 それだけに、今回の退任時の「選手たちに何度言っても、気の緩みが改善されなかった……」というコメントがね。 長谷川:そういう話を聞いてから過去の映像を見ると、監督が審判に真剣に抗議している時に、ベンチの中で選手がヘラヘラ笑っているのとか目についちゃうよね。廣岡大志はなんであんなに贔屓されているんだと言われていたけど、それは全力疾走する一生懸命な姿勢を評価していたんだろうなと思います。 村瀬:今年のオリックスは怪我人も多かったですからね。勝ちながら育てていくっていうのは全球団で課題ですが、それを実行できる監督って本当にいないですよ。今年もセカンドの太田椋などは育ってきているんですよ。もちろんスカウト陣の力も大きいですけど、厳しい状況でもしっかり良い人材を育成しているんですよね。 こういった裏話を知りたいけど、中嶋さんって基本的に取材で多くを語らないじゃないですか。 長谷川:3連覇したのに本が出ていませんもんね。ぼく、中嶋さんが現役を辞めるか辞めないかという時期に、インタビューしたことがあるんですよ。彼は阪急で山田久志や佐藤義則、星野伸之のボールを受け、西武では松坂大輔、横浜では三浦大輔、日ハムではダルビッシュ有、大谷翔平の球を受けてきた。すごい面々じゃないですか。それで、“一人のキャッチャーから見た日本のピッチャーの歴史”というテーマで話を聞いたんです。