【身体と私】生物学者・池田清彦が語る〈食の冒険〉Vol.4
履歴書に記されることのない、肉体に刻まれた記憶をたどる《身体と私》。当シリーズでは、スポーツはもちろんのこと、わたしたちの人生に欠かせない身体の履歴を〈私〉の悲喜交々とともに回顧し、学歴、職歴、資格や免許の有無からは知り得ない生身の〈私〉を紐解く。
敗戦直後の食料自給率は88%
――食べ物についても、煙草やお酒を『自分の身体の調子で判断する』のと同じように考えればいいのでしょうか。 「うん、それでいいと思うな。人間はもともと雑食性なんだから、何を食べたっていいんだ。そういう意味では、危ないのは『雑食』を拒否する人。最近流行のヴィーガンなんか、はっきり言って、ぜんぜん駄目だよね。長生きできないよ。いろいろ食べるのが一番いいの。9種の必須アミノ酸が足りていれば、あとは好みで食えばいい。ところで、ヴィーガンは、やっぱり昆虫食とかも駄目なのかな?」 ――見解が割れているようです。 「ふーん。人間なんて皆、昔は昆虫を食べていたのにねえ」 ――先生の最新刊『食糧危機という真っ赤な嘘』(ビジネス社)を読んで、目から鱗が落ちる思いでした。 「どの部分?」 ――たとえば、現在の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%。ところが、先生が生まれる前の年、つまり敗戦直後でとんでもない食糧難だといわれている1946年の食料自給率は88%もあったとか。 「食料自給率が下がったのは、国民が豊かになって1次産業をやらなくなったからじゃないよ。政府が『政策』として、自給率を下げよう、下げようと誘導してきたのだから」 ――世界的な食糧不足が懸念される近い将来、「タンパク源のコスパ」から考えると、日本で牛肉を食べ続けるのは難しいかもしれませんね。 「食用肉は、与えたエサ(飼料)と不等価交換でしか成立しないから仕方ないよね。牛肉(生体1kg)を生み出すには、10kgの飼料が必要。同じ1kgでも、豚肉なら5kgの飼料でいけるし、鶏なら2.5kgの飼料で済む。その上、卵まで産んでくれてね」 ――そうしたコスパの究極形態が昆虫食である、と。 「コオロギは1kgの生体になるのに1.7kgの飼料で済む。エビみたいに美味しい上に、栄養だって豊富。タンパク質にオメガ3脂肪酸、必須アミノ酸BCAA、ビタミン、ミネラル、亜鉛、鉄分、カルシウム、マグネシウム」 ――お米とイモを主食に、タンパク質は昆虫で摂る。そのベースの上で時折、養殖を中心にした魚と鶏肉を食べる。 「それが、将来における日本人のベーシックな食卓の風景になる可能性は否定できないよね」