【身体と私】生物学者・池田清彦が語る〈食の冒険〉Vol.4
カメムシは、パクチー風味
――徳島県の高校で給食にコオロギを出したところ、大騒動になりました。 「その件、僕も知っているけど、いろいろ誤解があるよ。だいたい、提供されたのはコオロギそのものじゃなくてコオロギの粉末だし、『給食で出した』という言い方も違う。徳島県の高校が、徳島大学発のベンチャー企業であるグリラスが開発したコオロギパウダーの提供を受けて、ひき肉の代わりにコオロギパウダーを使ったかぼちゃコロッケを試作したわけ。それについて事前にアレルギーについての説明もおこない、希望した人に試食してもらっただけだよ。強制でも何でもないんだから、どうして問題視するんだろう」 ――食べようと思えば食べられるけれども「文化的に食材だと見なされていないから」というイメージ上の問題でしょうか。 「そうかもしれないね。僕とか、僕より上の世代の日本人はイナゴの佃煮を食ったりしていたから、どうってことないと思うけど。でも、イメージで忌避するというのは、たしかに僕もあったな。小さいときに食べたことがないものは、大きくなってから食べづらいよね。 昆虫料理研究家の内山昭一さんから『マダガスカルゴキブリは美味いですよ』と言われたんだけど、僕はそれはそそられなかった。蜂の子とかイナゴはいいけど、ゴキブリはちょっと。だから、文化的な壁だな。そう、日本では食べないけど、ラオスの人はカメムシを食べるんだ」 ――あの、とんでもない臭いのカメムシ……。 「昆虫採集で、ナンボカタイというラオスの山奥の村に行ったの。そうしたら、現地の子供たちが面白がって、ついてきてさ。カメムシをいっぱい見せてくれるんだけど、ぜんぶ脚をもがれて、胴体しかない。なんでだろうと思って、身振り手振りで訊いたら、子供らがニッコリ笑って、パクッて食べた」 ――生のままですか。 「そっ。脚とか触覚とか、ちゃんともいでおかないと、口の中で引っ掛かるじゃない。せっかくだから、僕も食べた。パクチーの味、強烈だけどね。後で調べたら、ちゃんと科学的な根拠もあったよ。パクチーの独特の味の成分、アルデヒドがカメムシにも含まれていた。そういう視点でいくと、日本のタガメにもアルデヒドが含まれているから、食べたら、パクチーの味がするはずだ」 【身体と私】生物学者・池田清彦が語る〈食の冒険〉Vol.5に続く
【池田清彦/略歴】 生物学者。理学博士。1947年、東京に生まれる。東京教育大学・理学部生物学科卒。東京都立大学・大学院・理学研究科博士課程・生物学専攻・単位取得満期退学。山梨大学・教育人間科学部教授、早稲田大学・国際教養学部教授を経て、現在、山梨大学名誉教授、早稲田大学名誉教授、TAKAO 599 MUSEUM名誉館長。フジテレビ系「ホンマでっか⁉TV」に出演するなどテレビ、新聞、雑誌で活躍。「まぐまぐ」でメルマガ「池田清彦のやせ我慢日記」、YouTubeとVoicyで「池田清彦の森羅万象」を配信中。単行本の最新刊『食糧危機という真っ赤な嘘』(ビジネス社)が話題を呼んでいる。
VictorySportsNews編集部