漫画人気はマイナー競技の発展には直結しない?「4年に一度の大会頼みは限界」国内スポーツ改革の現在地
縮小して成功を収めた北米女子プロホッケー。「自分たちに合ったやり方を」
――女子スポーツは、国や競技によって、プロリーグの成否が大きく分かれている印象です。成功例に共通するセオリーはあるのでしょうか? 若林:私も女子の指導に関わっていますが、女子スポーツは独特な部分があり、一概には言えない部分があります。例えば、アメリカとカナダの女子アイスホッケー(PWHL)では、去年から今年にかけて、やっと選手たちが生活できるだけの給料を稼げるプロリーグができました。それまでは2つのリーグが競合してうまくいかず、片方が破産したりしていたんです。それらのリーグを統括することでプロという形にできたのですが、そのためにリーグが取った方法は、まずリーグを縮小することでした。これに関しては、私自身懐疑的な部分があったのですが、結果的には成功しています。 ――どのような部分を整理したのでしょうか? 若林:2リーグ合計11チームから6チームに絞って、そこからリーグ戦を始めたんです。運営形態は「シングルエンティティ」という、MLS(メジャーリーグサッカー)が最初に取ったやり方で、リーグ自体を一つの株式会社にして、その中でクラブに人を分配するシステムです。お客さんからすると「マーケットが狭まった」と思う人もいるかもしれませんが、リーグの戦略によってむしろ「プレミア感が出る」という認識が先行し、観客が1万人以上入るような試合もあります。来季からはさらにフランチャイズを2チーム増やすことを発表していて、着実に拡大しています。その例から言えることは、再構築する時は縮小することも一つの手法だということです。 ――興味深い例ですね。再構築する際は、改革に伴う痛みもあったのでしょうか。 若林:チーム数を減らしたわけですから、職を失う人も多く出たと思います。ただ、前のリーグはセミプロで、そこまでお金をもらえていなかったのですが、現行のリーグではタレントを凝縮させた分、そこにお金をかけてレベルが上がり、観客も集まるようになりました。さらに、この手法のいいところは、観客が増えることでスポンサーがつきやすくなることです。それまでは地方で1000人程度しか入らない試合も多かったのですが、1万人入る試合が増えたことで、明らかにスポンサーは増えました。そう考えると、当初は懐疑的だった私も、今ではそのやり方が理にかなっていたんだなと思います。 ――NWSL(アメリカ女子プロサッカーリーグ)もアメリカのプロスポーツで初めてドラフト制を廃止し、ヨーロッパと同じシステムに舵を切ることを発表しました。アメリカは女子スポーツも競技の構造改革を大胆にやりますよね。 若林:アメリカのスポーツ界は、変えることが大好きですから。ある意味では実利主義で、儲かることに反対する人はいないと思います。だから積極的に変えるし、ダメならダメで、諦めるのも早い。その意味では、北米にあったやり方でやっているなと思います。 ヨーロッパとアメリカのシステムを単純に比較することが難しいのは、背景に文化的・社会的な構造の違いがあるからです。NWSLはすべて女子単体のチームで構成されていますが、ヨーロッパは男子のクラブが税金対策も含めて女子チームの赤字を補填する形でうまく回しています。また、ヨーロッパは一つのクラブで小学生の子どもからプロまでがピラミッド状でつながっています。 これは他のスポーツにも共通する違いで、日本のサッカー界は学校スポーツを共存させつつ、ヨーロッパ型のクラブモデルで発展し、バスケもそういう流れになっています。ただ、それだけが正解というわけではなく、それぞれのスポーツの特性と実情に合ったやり方を模索していく必要があると思います。 <了>