漫画人気はマイナー競技の発展には直結しない?「4年に一度の大会頼みは限界」国内スポーツ改革の現在地
“イベント頼み”ではなく、育成の目的にかなう大会に
――女子サッカーでは、なでしこジャパンが2011年にワールドカップで優勝した後のフィーバーを継続的な競技人気や競技人口の増加につなげられませんでした。 若林:まさに同じことです。ラグビーもワールドカップが日本で開催されて、代表チームが素晴らしい成績を残して盛り上がり、トップリーグの人気は高まりました。一方で、高校ラグビーの参加校不足がクローズアップされるなど、競技人口という点では課題を残しています。 どの競技にも当てはまる共通の課題は、やはり育成年代の競技構造をしっかりと構築できていないことです。そして、オリンピックやワールドカップなど、「イベント頼み」の競技振興には限界があるということです。国際大会にお金が落とされるから注目は集まりますが、「その後にどういう構造を作るか」という絵までは描けていない。形が作れなければ、せっかく増えた競技人口や人々の期待に応え続けることはできません。 例えばフィンランドは2012年にアイスホッケー世界選手権を主催した際の剰余金で、協会がフルタイムのスキルコーチを雇い、全国のクラブを巡回して子どもからプロまで高度なスキルトレーニングをしただけでなく、各地のコーチにもコーチングのノウハウを伝授して、今ではスキル大国と呼ばれています。これがイベントを機にした構造づくりの成功例です。 ――4年に一度の大会にかけるのは、リスクが大きいですよね。それでも、同じことを繰り返してしまうのはなぜなのでしょうか? 若林:いろいろな問題が複雑に絡み合っていると思います。国策の話になりますが、オリンピック等の国際大会につながる強化や施設には予算がつきやすくても、それを支える普及や育成に十分な予算と人材が配分されてこなかったように思えます。特に、一番大事な育成に関しては、親のお金頼りになってしまっていて、スポンサーもつきづらいという事情があるのだと思います。もちろんオリンピック等での活躍とそれに伴う露出がなければ、その競技への大口スポンサーがつかないので、強化が重要であることは間違いないのですが。 「全国大会」という冠がつく場合に大企業がスポンサーにつくことがあり、日本でも小学生で全国大会をやっている競技はいくつかありますが、若年層から資金的な負担が大きい上に勝利至上主義に陥りやすく、世界的な育成の流れには逆行しています。関係者に聞くと、「大企業の名前でやっている以上やめられない」という事情もあるようですが。 ――普及や育成の本来の目的にかなうような大会の形式や意義を、スポンサーに理解してもらった上でサポートしてもらうのが理想ですね。 若林:スポンサーへのプレゼンがしっかりしていれば、それはできると思います。育成年代のリーグ戦の価値を理解してもらえるように論理立てて、例えば「地域リーグを作って、それを統括する全国リーグのスポンサーになってください」とお願いしてみるのはどうでしょうか。バスケでは、部活やクラブの垣根を超えたU-18世代の階層別リーグを2022年から全国規模でやっています。日清食品がスポンサーになっていますが、レベル分けされたリーグ戦による育成の価値と、数日で終わってしまう従来の全国大会に比べ、はるかに長期的な露出が見込まれるメリットを伝えることができれば、賛同してくれるスポンサーはいるという好例だと思います。