時間に追われない”豊かな”葬儀を 鎌倉自宅葬儀社・馬場翔一郎さん
ネット広告制作やスマートフォン向けゲームの開発などを手がけ、「面白法人カヤック」の名称で知られるカヤック。鎌倉市に本社を置き、ITを活用したまちおこし組織「カマコン」を仕掛けるなど地域への貢献も重視する同社が8月、"自宅葬"に特化した葬祭業に参入した。 子会社として新たに設立した「鎌倉自宅葬儀社」で葬儀の現場を統括するのは、葬祭業界で約10年間経験を積んできた"自宅葬コンシェルジュ"の馬場翔一郎さん。埼玉県で葬儀業界に従事していた馬場さんが、カヤック、鎌倉、自宅葬というフィールドを選んだのはなぜだろうか。
身内の葬儀後に経験した喪失感を和らげる“時間“
――葬祭業界には、どんなきっかけで入られたのでしょうか。 写真専門学校に通っていたんですが、結婚式の写真を撮るカメラマンはいるけど、葬式で写真を撮るカメラマンはあまりいないなと当時考えていました。ウェディングも大事だけど、人生最後の瞬間を写真に収めるっていうのは、すごく大事なんじゃないかなと。単純に葬儀業界ってどんなところかなという興味もあって、葬儀業界専門の人材派遣会社に登録して、いろんな葬儀屋に出向いていました。 葬儀屋だけでなく、花屋や飲食、テントの会社など葬儀に関するすべての業種で実務を経験しましたね。さまざまな業者の観点から現場を見ることができ、葬儀にまつわるあらゆる情報も入ってきたので、そういったものを活かしてもっといいものができればなと考えていました。 ――自宅葬に着目された理由は? 業界に入って8年目くらいに祖父を亡くして、初めて自分で身内の葬儀に携わりました。葬儀は自宅ではなかったんですが、火葬場の都合上、自宅に1週間ほど安置して葬儀の段取りをすべて自分で仕切っていたので、祖父が本当に亡くなったんだという実感がなくて、これが喪主さんの感覚なんだろうなと痛感しました。自分は慣れているので大丈夫だろうと思っていたんですが、いざ自らが仕切るとなると結構あたふたしてしまって、悲しみにちゃんとふけることができなかった。 葬儀が終わって落ち着いたころ、祖母と母、叔母から祖父との思い出話を聞いた時、ボロ泣きしてしまったんです。祖父について、自宅で家族で語り合ったり、懐かしんだりする時間があったことが、喪失感を和らげてくれました。そのときの経験から、オペレーション、時間に追われず、思い出に浸れる葬儀の形を模索するようになり、結果自宅葬にたどり着きました。