梅酒を地域の新産業に、「甘くない梅酒」が新しい需要を作り出す
「東京に出向することがなかったら、役場を辞めていなかったと思います」。福井県若狭町にある農業生産法人「エコファームみかた」営業部の藤本佳志さん(37)は、若狭地方の名産品「福井梅」を思いながら、そう話した。 若狭町は、日本海側で一番の梅の産地であり、福井県内の梅の8割が同町で生産される。その多くは、若狭湾国定公園にある三方五湖周辺で育てられている。春の梅まつりのシーズンになると、約8万本の梅林が一斉に花を咲かせ、梅の香を漂わせる。
同地域の梅の栽培は江戸時代の天保年間(1830~1843年)に始まったとされ、年間2060トンの梅の実が収穫される。多くは梅干しの用途に使われるが、「エコファームみかた」が取り組むのは、主に梅酒の生産だ。 藤本さんは、若狭町役場で11年間務めていたが、そのうち2年を東京のNPO法人に出向して過ごした。仕事として若狭地方の魅力を東京の人たちに話しているうちに、観光や食べ物をはじめとした故郷の良さを再発見している自分に気づく。出向先から役場に戻って1年、「若狭の良さを全国に向けて情報発信できているだろうか。直接、若狭の営業に携わりたい」と考え、2014年4月に同社に転職した。 梅の生産に始まり、梅酒の製造、飲食店などへの販売。地域資源を活用しながら、地域の活性化を目指すいわゆる「6次産業」だ。2013年度の売上は約2000万円だったが、今は2倍以上に成長し、会社全体の売上1億円を目指せる規模になっているという。
成長のカギは、甘くない梅酒「BENICHU」だという。アルコール度数が20%と38%の2種類があり、梅酒としてはアルコール度数が高い。しかも無糖。梅酒らしくない梅酒だ。しかし、梅の酸味がしっかりときいており、ウイスキーのような味わいがある。 この商品は、全国の物産展で同社の梅酒をPRするたびに聞いた「梅酒は甘いから飲まない」と言う消費者の声を取り入れて誕生した。「福井梅」の主な品種は「紅映(べにさし)」といって、種が小さく肉厚なのが特徴。藤本さんは、「肉厚の分だけ梅のエキスが十分に出やすく、糖分を含んでいないので、素材の味わいを十分に楽しめる」と話す。