予算12万円でヒマラヤトレッキングにも挑戦! 旅の本屋さんが選ぶ「今すぐ冒険に出たくなる本 vol.10」『12万円で世界を歩く』
旅の本屋「のまど」の店長が、店頭に並ぶ本のなかから、外にでかけてみたくなるキャンプ・アウトドア好きのための本を選びます。今回は、1回あたり予算12万円という限られた予算で世界を旅した物語『12万円で世界を歩く』をご紹介。ガイドなしでヒマラヤトレッキングに挑戦した際の、著者の工夫にも注目です。 【写真】奇想天外な「12万円で世界を歩く」の紙面を見る(全5枚)
ヒマラヤトレッキングでの節約術とは
本書の中には、ヒマラヤのアンナプルナコースをトレッキングする章があります。そこでは予算の関係上、ガイドを付けることができなかったため、カメラマンと二人で盗賊に合わないように背後を気にしつつ、トレッキングルートではなく、山村を結ぶ地元民の生活道を牛糞にまみれながら登ります。 道中の食事は、乾燥ムギやクルミ、トウモロコシや干しブドウが入った安いトレッキングフードで代用。お金がなくなりそうになると、持っている目覚まし時計やビーチサンダル、ズボンなどを売って現金に交換するという、究極に予算と荷物を減らす技を発揮しています。 こういった旅先で物がなかったり、トラブルに巻き込まれたりした際に、自力でアイデアを考えながら、急場をしのぐといった方法は、日常生活やちょっとしたアウトドアライフの中でも非常に役立ちますよね。
ビンボー旅行のバイブル的一冊
本書は、70歳近くなった今も現役の旅行作家である著者が、1988年6月から翌年11月にかけて、雑誌『週刊朝日』の企画で、1回あたり予算12万円の旅をした時の物語。ヒマラヤ、カリブ海、ユーラシア大陸陸路横断や北米陸路横断縦断など、限られた予算の中、トラブルに巻き込まれたり、人の親切が身にしみたりしながら、世界の人々の素顔や生活、旅の喜怒哀楽を綴ったビンボー旅行のバイブル的一冊です。 著者の下川裕治さんとは、今でこそ一緒にお店でYouTubeのライブ配信をしたり、 お店の新刊発売記念イベントに頻繁に出演してもらったりして、かなり近しい間柄になっていますが、旅の本屋を始める前は、だたの一ファンとして下川さんの旅行記を読んでいたので、凄く不思議な気がします。 33年前と今とでは様々な環境が変化したので、本書の中で著者がやっていたのと全く同じような旅のスタイルを再現するのは難しいとは思いますが、ネットとスマホの呪縛から逃れない方は、スマホを手放し体一つで現地に飛び込んで、住民目線で旅を体感してみてはいかがでしょうか。 そんな日本のバックパッカーの教祖的な存在である下川さんですが、1990年に発売された本書が旅行作家としての実質的なデビュー作。それ以来、30年以上に渡って旅の本を書き続けているのは本当に凄いことだなと思います。しかも、本書の中でもそうですが、お金をかけない貧乏な旅のスタイルを貫いていることは、見事としかいいようがないですね。 本書を初めて読んだのは、大学生4年生の頃でした。すでに、沢木耕太郎さんの『深夜特急』を読んで、海外放浪の旅の面白さに目覚めていたのですが、『深夜特急』が旅そのものへの心持ちというか旅心のようなものを気づかせてくれたのとは対象的に、下川さんの『12万円で世界を歩く』は、どうやったらお金をかけずに海外旅行を楽しめるのかといった貧乏旅行のノウハウ、旅の技術的な部分を教えてくれた気がします。 例えば、ガムテープが1巻あれば、安宿の洗面台に栓が付いていない時でもガムテープで栓をして水を貯めれば洗濯ができるし、ガムテープを細く切って折り曲げれば洗濯ロープにも代用できる、といったような具合に、「旅先で困った時でも、アイデアさえあれば乗り切れる」ということを本書から知りました。 今なら12万円の予算があれば、航空券やホテルをネットから簡単に安く予約でき、現地でもスマホでグーグル翻訳とグーグルマップを駆使して、一番簡単で安い方法をすぐに見つけられるので、海外旅行でも簡単にコスパのいい旅のスタイルを見つけられると思います。しかし本書の中の著者のように、地べたに這いつくばりながら、地元の人と同じ目線になって泥臭くお金をかけずに旅をすることで、効率よく旅するだけでは見えてこない世界の現状が旅を通して見えてくるような気がします。
川田正和