センバツ高校野球 信頼厚い作新の「戦力」 マネジャー・鈴木駿太郎さん(3年) /栃木
◇言葉に重み、ナイン鼓舞 第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)に出場する作新学院をグラウンドの外から支えるのが、マネジャーの鈴木駿太郎さん(3年)だ。選手として甲子園の土を踏むことを夢見て硬式野球部の門をたたいたが、半年後にプレーヤーとして限界を感じてマネジャーへ“コンバート”。葛藤を乗り越えている自分だからこそ「全員で1球を追っているんだ」とナインを鼓舞する。 「このままでは通用しない」「やるべきことは全員にある。ちゃんと考えてやっていこう」――。センバツ出場が決まり2週間近くが経過した2月上旬、鈴木さんは練習前の円陣で選手へ檄を飛ばしていた。この頃、小針崇宏監督は出張による不在が続いていたため「監督が見ていないところでどれだけ一生懸命やれるかが、全国で勝てるかどうかの差になる」と発破をかける。 同部では伝統的に女子マネジャーを募集せず、男子部員がマネジャーを務める。鈴木さんは元々、二塁手を志望して入部した。同学年だけで他に7人も同じポジションを争うライバルがおり、打撃も守備も自分が秀でているものはなかった。唯一ベンチ入りできたのは、中間テストの成績順でメンバーを決めた2021年秋の1年生大会だけ。そこですら出場機会は与えられなかった。 そんなとき何人かのコーチから「マネジャーを考えてみないか」と勧められた。中でもかつてマネジャーをしていたOBの外部コーチには「監督の一番近くで学べるぞ」と言われたことが心に残った。1カ月悩んだ末に「残り2年間を有意義に過ごせるなら」と転向を決めた。同じポジションのライバルだった中島紀明さん(3年)は驚いた表情を見せたが、「一緒に野球できなくなるわけじゃない」と背中を押してくれた。 小針監督は「おまえが決めたなら任せるぞ」と言ってくれた。でも、鈴木さんが練習や合宿でどう振る舞って良いか分からず動けない状況が続くと「気が利かねえな」「使えないな」と叱責された。 一般的なマネジャーは、飲み物や補食を準備したり、洗濯をしたりといったサポートが仕事だが、作新で求められるのは、練習メニューを考え、ノックを打ち、技術的なアドバイスを送るなど「チームメートのコーチ」に近い。鈴木さんは「どうしたら認めてもらえるのか」と悔しさをバネに考え続けた。 小針監督は選手になるべく自分で考えさせるタイプだ。選手に「打球がドライブして落ちてるぞ」と指摘することはあっても、なぜそうなってしまうのか、すぐに答えまでは言わない。また試合では、バッテリーの配球や攻撃の重要な場面でミスがあると、ボソリと独り言をつぶやくことがある。 鈴木さんは、そうした監督の発言を隣で聞きながらメモに残し、自分なりに理解をした上で、具体的な助言を選手たちにし続けた。すると、次第に不安は消え、周囲からアドバイスを求められるようになっていった。中島さんは「指摘をもらえてありがたい。ときに監督以上のことを言ってくれる」と大きな信頼を寄せる。 昨秋の関東大会後、小針監督は「おまえがキャプテンだと思ってやれ」と更なる奮起を促した。鈴木さんは意気に感じて「自分がこのチームを強くします」と宣言。一皮むけ、ナインをまとめる存在となった。 「去年までは先輩や同級生にも指示やアドバイスを言いづらそうにしていたが、不要な遠慮がなくなった」と小針監督。「彼は、自分がチームのために何ができるかを考えてやってきた。選手の目線もコーチの目線も持ち合わせ、一言一言に重みがある」とした上で「大人になった。最も勝ちたいと思っているマネジャーではないでしょうか」と成長に目を細める。 センバツを前に鈴木さんは「選手としてグラウンドには立てないが、自分も戦力だと思えるようになった。甲子園では記録員として試合を分析しながら、気づいたことを伝えて勝利をつかみたい」と熱い思いをたぎらせている。【井上知大】