汚職と脅迫に基づくプーチンの超長期政権 権力の私物化が招いたウクライナ侵攻
汚職と脅迫で成り立つ超長期政権
KGB時代に培った、〝人に対処する能力〟は、プーチン氏のその後の政権運営にも色濃く反映されている。超長期政権を維持するプーチン氏だが、その政権運営を支える重要な要素となっているのが、KGBの工作員が相手を取り込むために使う〝弱み〟を握り、相手を脅迫して従わせる手法だ。 前出のフィオナ・ヒル氏は、プーチン氏が用いる統治構造を、「非公式の私的なシステムに支配された環境」と解説する。 それは、どのようなものか。典型的な事例が、プーチン氏が2000年に打ち出した、オリガルヒらに対する行動原則だ。オリガルヒは、エリツィン時代に国家の資本をかき集めて蓄財し、政治、経済両面において隠然とした影響力を行使していた。しかしプーチン氏は、彼らが活動を続ける上での〝交換条件〟ともいえる原則を打ち出した。 それは、オリガルヒらは従来通りにビジネスに従事し、財産を築くことができるものの、一方で政府の財源を確保するための課税制度に合意し、かつそれを変更させようとするような試みは許されないというものだ。さらに国外での活動においても、プーチン政権が考える〝ロシアの国益〟を優先しなくてはならない。
オリガルヒらを単に排除するのではなく、手元に引き入れ、コントロールする。まさに前述のKGBの工作員が駆使する「人間に対処する」手法が応用されている。一方で、そのルールに反した者は、厳しい罰が与えられる。実際に、そのようなプーチン氏の提示した行動原則に反旗を翻したオリガルヒらは、ロシア社会から排除されていった。 さらに、プーチン氏の統治構造には、「人間に対処する」手法のもうひとつの重要な要素も駆使されている。「脅し」である。これは、むしろプーチン氏に従順な姿勢を示す取り巻きに対し、その忠誠を維持するために利用されている。 具体的には、過去の〝罪〟を暴くことをちらつかせて、相手に忠誠を誓わせるというものだ。弱みを握り、相手をコントロールする手法だ。 プーチン氏の統治システムの中で実績を上げ、その維持に貢献した人間は、さまざまな特権や報酬を得ることができる。しかし、金銭的な報酬というものは、いつか、誰かがさらに優れたものを提供する可能性がある。 だからプーチン氏は、潜在的な脅しで、相手をコントロールする。誰もが、汚い金をつかまされ、弱みを握られるというのだ。だから、ロシアにおいて汚職というものは、ほかの国々とは意味合いが大きく異なる。それは、時に政府が人をコントロールするためのツールとして使われる。そして弱みを握られた人間は、プーチン氏に対し否が応でも忠誠を誓わざるを得ない。