トランプ2.0は米国の成長を妨げる? インフレは再燃し財政収支も悪化か 高橋尚太郎
もちろん、関税政策については、トランプ氏も影響の大きさを理解し、実施を控える可能性は十分にある。また、世界各国に対する10%の輸入関税の恒久化には法案化が求められ、議会の反対も多いとみられる。しかし、米国の対中強硬姿勢は一貫しており、対中関税の引き上げは段階的に実施される公算が大きい。また、移民政策に関しては、不法移民に対する国内不満の強さを受けて、厳格な政策を推し進めていくだろう。 ◇前半2年間が勝負 仮に25年中に対中関税が20~30%程度まで引き上げられる場合、厳格な移民政策の実施と併せてインフレ率の上昇や生産力の伸び鈍化を招き、個人消費の減速などを通じて、経済成長率は0.2~0.3ポイント程度は押し下げられる可能性がある。また、他国との貿易摩擦が強まった場合は、さらに経済への下押し圧力がかかる。 トランプ前政権の関税引き上げ時は、景気悪化のリスクを見据えて利下げが実施された。ただ、現状はインフレ再燃懸念があり、利下げのペースは緩やかにならざるを得ない。利下げによる景気下支えはあまり期待できない。一方で、トランプ氏は米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に対しても介入を強める可能性があり、政策は混乱するだろう。 26年ごろからは、ようやく減税による景気の押し上げ効果が本格化する。実際に、トランプ氏が掲げる減税策がすべて実現すれば、相当な景気浮揚効果が期待できる。トランプ減税延長(今後10年間で5.4兆ドル程度の規模と試算)は現状がそのまま維持されるだけで、景気を押し上げる効果はない。ただそれ以外の残業代非課税、社会保障給付の非課税、チップ非課税、法人税引き下げなどの減税措置(同3.8兆ドル程度)は26年の成長率をプラス0.5%程度押し上げる規模である。25年の景気減速を十分に取り戻すこととなる。 ただし、これだけの規模の減税策により、財政収支バランスが大幅に悪化することは確実である。米国の超党派のシンクタンクであるCRFB(責任ある連邦予算委員会)によると、累積債務残高は現状名目GDP(国内総生産)比100%程度であるが、10年後には140%程度まで膨らむと予測している。財政の持続性に対する懸念、国債の需給悪化、インフレ懸念などが入り交じって、金利には上昇圧力がかかるだろう。金利上昇により、企業の資金調達コストの上昇や株価の下押し圧力が生じ、景気回復の勢いが抑えられると考えられる。
また、こうした財政悪化に反対する勢力は共和党の中にも多い。トランプ新政権と議会の協議がうまく進まず、減税策が期待外れに終わることも十分に起こり得る。この場合は、関税引き上げ策と厳格な移民政策による景気減速をカバーしきれないこととなる。 憲法の規定で3期目がないトランプ第2次政権にとって、レームダック化するまでの前半の2年間が勝負といえるかもしれない。しかし、現在掲げられている政策は米国経済の振れ幅を大きくする。トランプ新政権が景気動向に敏感に反応しながら、どの程度政策を進めるか注視される。 (高橋尚太郎・伊藤忠総研上席主任研究員)