トランプ2.0は米国の成長を妨げる? インフレは再燃し財政収支も悪化か 高橋尚太郎
トランプ前大統領が11月5日の米大統領選で勝利した。トランプ氏は現政権下で起きた高インフレなどの問題を攻撃し続け、米国民はハリス氏に現状を変え得るだけの力量を見いださなかった。ただ、皮肉にも、トランプ氏が掲げる政策はインフレ再燃につながるものが多い。 トランプ氏の政策でマクロ経済に大きなインパクトを与えるものは、①関税引き上げ策、②移民政策の厳格化、③減税──の三つである。これに、脱炭素政策の巻き戻しやエネルギー分野の規制緩和など、個別セクターの政策が加わる。 このうち、2025年は関税引き上げ策と移民政策の厳格化、26年は減税が進むと考えられる。というのも、関税引き上げ策は、大統領の権限で、議会との協力が必要なく実施できるものが多い。同様に移民政策も、司法の判断が必要なものもあるが、大統領令で実施できる余地が大きい。一方、減税は税制関連の法案化が必要なため、議会との調整が必要で、実現するとしても1年程度かかると見込まれる。 25年に進むと考えられる二つの政策は、ともにインフレを招きやすい。関税引き上げ策としては、①中国からの輸入品に対する関税を60%まで引き上げる、②中国以外の国からの輸入品に対する関税を最大20%まで引き上げる──ことなどが掲げられている。これらが全面的に実施されれば、輸入物価が大幅に上昇することは避けられず、米国民が直接購入する消費財はもちろん、中間投入される輸入財の価格上昇を通じて、最大1%程度のインフレ上昇につながると試算できる。 また、移民政策の厳格化は、再び人手不足に陥るセクターが増えることによって、賃金上昇を招く可能性がある。賃金コストの上昇は、主にサービス産業で価格に転嫁され、消費者物価が上昇することとなる。 現在トランプ氏が掲げる政策がすべて実現すれば、消費者物価は1%以上も上昇する可能性がある。目前に見えてきた米国経済のソフトランディング達成は遠のく。