なぜ入浴が体に良いのか、効果を科学的に解説。全身浴、半身浴、反復浴…すべて正解で、湯上りに気持ちのよい「自分に合った入浴法」を選ぶ
◆「温熱」「浸透」について まず「温熱」ですが、肌に伝わる熱は対流と放射の2つがあり、対流とはお湯が直接肌に接触して表面から伝わるケースです。家庭での入浴はほとんどすべてがこの対流熱です。 放射は遠赤外線に代表されるように岩石などの物質から放射される熱です。電磁波として肌の内部まで浸透して伝わります。 ただし、遠赤外線が肌に浸透するのはせいぜい0.2mm程度で、すぐに熱に変わり、血液を通して全身に伝わっていきます。 骨まで浸透して芯まで温まっているわけではありません。 家庭の浴槽は金属やうすいプラスチックなので遠赤外線の放射量が少なく、その恩恵を受けることができませんが、温泉地の岩風呂では岩石からの遠赤外線を浴びることができるため、対流熱と放射熱の両方で体が温まります。 特に頭を冷やしながら長時間温まることのできる露天風呂や岩盤浴は、温熱効果を得るにはとても理に適っています。 温熱によって筋肉や肌の代謝の促進はもとより、時間をかけてゆっくりやさしく古い皮脂を溶かし、角質を柔らかくすることができます。 次に、ひとつ飛ばして「浸透」についてですが、温熱効果によって柔らかくなった皮膚と、古い皮脂が溶解して開いた毛穴から、様々な成分が浸透したり排出されたりします。 その成分とは主にミネラルなどのイオンであり、温泉の効能の多くはカリウムイオンや炭酸水素イオンの吸収や働きによるものです。
◆入浴のメインイベント「洗浄」 入浴の最大の目的は「洗浄」であることが多いですが、洗浄に関わるメカニズムは温熱発汗、アルカリ性、界面活性剤の3つです。 まず温熱によって新鮮な汗と皮脂がそれぞれエクリン腺と皮脂腺から出されます。 もう一つアポクリン腺もありますがこちらは温熱よりも精神性刺激によって活発になりますから入浴の発汗にはあまり関与していません。 エクリン腺から排出される汗は99%以上が水分であり、わずかにミネラル、乳酸塩、尿素、皮脂が含まれます。 皮脂腺から出される皮脂はまさに油成分であり、トリグリセリド(油脂)、ワックスエステル、脂肪酸、スクアレンなどです。 トリグリセリドの多くは常在菌によって脂肪酸とグリセリンに分解されます。 なかでも脂肪酸は優秀な界面活性剤であり、古い皮脂を水に溶かし込みます。 溶かし込まれた古い皮脂はエクリン腺から出された汗によって浮かし出され、お湯によって洗い流されます。 多くの古い皮脂はこうして温熱と発汗によって洗浄されますが、古いたんぱく質を落とすにはアルカリ性が威力を発揮します。 固形石鹸は弱アルカリ性ですが、実はこの弱アルカリ性こそが適度な洗浄力として働きます。 そのため弱アルカリ性の温泉では石鹸がいりません。 こうした基本的な洗浄メカニズムをながめると、洗浄剤に中性や弱酸性は求めすぎないほうがいいのではないかと感じます。 もちろん泡切れの悪い洗浄剤がアルカリ性だと肌に残って刺激になってしまいますが、だからこそ泡切れの良い純石鹸はベストです。 弱アルカリ性で古いたんぱく質を溶かして浮かせて、さっと洗い流すのは肌の洗浄に適しています。 こうした発汗とアルカリ性による洗浄でも不快感が残ってしまう場合に、界面活性剤(洗浄剤)の出番です。 冒頭に、洗浄剤はあくまでも「補助的な洗浄」だと表現しました。 温熱発汗とアルカリ性石鹸によってほどよく洗浄することに肌が慣れれば、いわゆるタモリ式入浴が完成します。 純石鹸も使うか、使わないかの二択ではなく、使用量の調節やオンオフが重要です。 ※本稿は、『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』(晶文社)の一部を再編集したものです。
尾池哲郎