日銀・黒田総裁会見7月20日(全文1)2%程度達成は19年度ごろになる可能性
景気が改善していながら、物価上昇が鈍いという背景について
NHK:今回の展望レポート、景気判断を前に進めましたが、物価目標の達成時期については後ろにずらすという形になりました。景気が改善もしくは拡大している一方で、物価の上昇が鈍いっていうことの背景について、総裁のご所見をあらためてお伺いさせてください。 黒田:はい。先ほど申し上げましたように、わが国の景気が緩やかに拡大している一方で、消費者物価は弱めの動きとなっております。この背景としては携帯電話機や通信料の値下げといった一時的要因もありますけれども、やはり賃金、物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が、企業や家計に根強く残っていることも影響していると考えております。企業においては人手不足に見合った賃金上昇をパートなどにとどめる一方で、省力化投資の拡大やビジネスプロセスの見直しにより、賃金コストの上昇を吸収するなどの動きが見られます。このように労働需給の着実な引き締まりや、高水準の企業収益に比べ、企業の賃金価格設定スタンスはなお、慎重なものにとどまっております。実際の物価上昇率の影響を強く受ける形で、中長期的な予想物価上昇率の高まりも先ほど申し上げたように、ややあとずれしているということであります。 もっとも、こうした状況がいつまでも続くことは想定しておりません。先行き、マクロ的な需給ギャップが着実に改善していく中で、賃金コスト吸収のための対応にもおのずと限界があると考えられますので、企業の賃金価格設定スタンスは次第に積極化していくとみられます。また、中長期的な予想物価上昇率についても、実際の価格引き上げの動きが広がるにつれて着実に上昇するというふうに考えられます。このように物価安定の目標に向けたモメンタムがしっかりと維持されている下で、消費者物価の前年比はプラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくというふうに考えております。
九州の豪雨被害が国内経済に与える影響について
NHK:幹事から最後に。このところの九州の豪雨の被害の状況ですけれども、九州地方、ひいては国内経済への影響を現状でどのようにご覧になっているかっていうことをお聞かせください。 黒田:はい。まず、このたびの九州北部豪雨によって犠牲となられた方に心より哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げたいと思います。日本銀行としても地元の金融機関などに対して災害被害者の被災状況に応じて、弾力的かつ迅速な対応に努めるよう要請しているところでありまして、今後ともできる限りの貢献を行っていきたいと考えております。 なお、今回の豪雨の経済への影響については、地元支店からのこれまでの報告によりますと、企業の生産設備は大きな被害は免れたものの農林業に被害が出ているほか、多数の施設が浸水被害を受けているようであります。また鉄道インフラの毀損もあって、夏休みシーズンに向けた観光への影響を懸念する声も少なくないとのことでありました。 いずれにいたしましても被害の全容が完全に明らかになっておらず、現在は情報収集に努めているところでありますけれども、日本銀行としては今回の豪雨が地元経済や日本経済全体に与える影響について、引き続き丁寧に調査してまいりたいというふうに考えております。 【連載】日銀・黒田総裁会見(2017年7月20日)全文2へ続く