“食業”の思いを継ぐ伊豆沼農産の「よそ者」 7人のプロボノと新たな一歩
1988年創業の有限会社伊豆沼農産(宮城県登米市)は、「農業=農作物や家畜などを育てる」という固定観念に捉われず、「農村の産業化」という独自の理念を掲げている農業法人です。自立した農村産業を実現したいという、創業者の思いに共感して入社したのが、都市と農村のつなぎ人である「よそ者」を自認する取締役の佐藤裕美さん(41)です。コロナ禍で伊豆沼農産の強みだった体験という価値を届けるのが難しくなったことをきっかけに、「よそ者仲間」である7人の外部人材(プロボノ)の力を借りて新たな一歩を踏み出しました。 女性が活躍できる中小企業 時短勤務・教育制度の事例を紹介【写真特集】
無人駅のにぎやかな場所 「食業」掲げる伊豆沼農産
宮城県仙台市から北へ70km、仙台駅からJR東北本線で約1時間。ワンマン電車が行きついたのは、渡り鳥の飛来地としてラムサール条約登録湿地として知られる伊豆沼がある無人駅・新田(にった)。駅からメイン通りを500mほど歩くと、にぎやかな声が聞こえてきます。 そこが伊豆沼農産の運営する「くんぺる直売マーケット」と「くんぺる農場レストラン」です。 直売マーケットで新鮮な食材を楽しめるほか、手づくりウインナーや生ハムオーナーなどの体験もできるようになっています。 創業者の伊藤秀雄さん(67)は、18歳の時に父親の突然の死をきっかけに農業の勉強を一切にしないまま、1988年に養豚と稲作の複合経営をスタート。 「大規模農業」を目指して動き出しますが、どうしてもぬぐい切れない大きな疑問がありました。 「自分で育てた豚が、どのような形でお客様の口にはいるのか知らなくていいのか」「どうして自分たちで育てた作物に値段や価値がつけられないのか」ということです。 目指すべきは「付加価値をプラスして、農作物や家畜を人の口に入る食べものに変えていくこと」とし、それを「食業」と定義することにしました。 「豚がハムという加工品に。ハムをお皿に盛りつければ、加工品は料理になる。付加価値が利益につながる」と考えた伊藤さん。最大のポイントは人が集まるところへ出店するのではなく、仙台駅から約1時間かけて「わざわざ来てもらうこと」を重視したところです。 最初は都会への出店も考えたそうですが、産地から離れるほどに鮮度も落ちるので、感動するほどのおいしさを提供できないと判断。鮮度重視で、食べる人に現地に来てもらう方法をとりました。その思いが現在のにぎわいへとつながっていきます。