“食業”の思いを継ぐ伊豆沼農産の「よそ者」 7人のプロボノと新たな一歩
コロナ禍で「体験」を大打撃 よそ者仲間の意見が欲しい
しかし、新型コロナウィルスの感染拡大が直撃します。毎年体験教室には4000人が訪れていましたが、コロナ禍は1000人に減少しました。レストランも70%減の来店数となり、苦戦が続きます。 訪れてもらい食べる、体験するところに価値をおいたプログラムはお先真っ暗になりました。 裕美さんは、コロナ禍が終息した時のために、新たな一手を考えなければと焦ります。 でも、社内の意見だけではまとまらず、自分の中でモヤモヤとしたものを感じていたそうです。 「都内在住だった自分は、自然の癒しを求めて、都会と地方を行き来するような生活に魅力を覚えた。だからこそ、この土地の良さを再発見するために、自分のような外部の人の意見が欲しい」と強く感じ、生まれ育った環境も年齢も、職業もまた違う人に意見をもらう「外部人材(プロボノ)」という方法に挑戦することにしました。参加したのは、東北経済産業局主催のプロボノプロジェクトです。 農村の産業化をテーマにした伊豆沼農産には、大手損害保険会社勤務、自動車販売、コンサル系会社勤務など職業や年齢などもバラバラの7人が集まりました。 農業のイロハも、伊豆沼という土地もまったく知らない人たちです。
コロナ禍に自分一人ではできないことができた
裕美さんがプロボノメンバーにお願いしたのは「農村を産業化したいという創業者の思いを、コロナ禍でどうやったら具体化できるのか?」でした。 目指すべきゴールは理解しているが、明日どう動いたら良いのかは分かりませんでした。誰にも相談できないまま、モヤモヤばかりが大きくなるばかり。 正直な気持ちをメンバーに打ち明け、それをくみ取ったメンバー達は半年で10回もの打ち合わせを通して、裕美さんや創業者の思いを整理、言語化して、資料に落とし込みました。 またプロボノプロジェクトの最終着地点として「食農体験ソムリエというコーディネーターに興味を持ってもらうオンラインイベント」を企画・開催しました。 食農体験ソムリエは2015年にスタートした資格で、地域の資源および特性を生かした、複合的な体験が提案できるスキルを認定する制度です。全国では7ヶ所の認定施設がありますが、東北では伊豆沼農産ただ一つ。地域の魅力を理解し、都市農村交流をアシストする「つなぎ人」を増やすためのオンラインイベントで、農業や食の仕事に携わる人だけでなく、ITや金融、製造業などさまざまな職業の人が集いました。 新型コロナウィルスという未曽有のパンデミックを経験したからこそ「ソムリエになりたい!」「伊豆沼を訪問したい」「これからは地域とつながりをもっともちたい」など、これからの自身の生き方を見直すきっかけにして下さった人が多い印象を受けたとのこと。 裕美さんは当時を振り返り「コロナ禍でも新しい一歩が踏み出せた。自分1人ではできないことが、外部の力によってできた。」と柔らかな笑みを見せます。