マニフェストは訂正し続けよ。都知事選5位「令和のダ・ヴィンチ」 x 四條畷市長対談
政治にも必要なのは「ボーン・グローバル」の感覚。考えるべきは「世界の中の東京」
──安野さんはなぜ政治に興味を持つようになったのでしょうか。 安野貴博(以降、安野):私は元々システムというものに興味がありました。ソフトウェアもシステムですし、スタートアップのビジネスというものもシステムです。1番大きなシステムが「社会システム」であり「政治システム」だと私は思っていて、そこに関する興味はシステムに対する興味の延長線上という意味で昔から持っていました。 実際、大学時代には国会の議事録データを全部スクレイピングしてきて、どの国会議員がどういうキーワードをいくつ発信しているか可視化するダッシュボードツールを作っていました。ただ10年以上前のことで、今のようにLLMもChatGPTもなかったので、できることが限定的だった。今の時代はもっと進んだことができることも、政治にチャンスがあると感じた理由です。 ──AIなどの新しい技術は政治にどのような影響を与えるのでしょうか。 安野:私はAIなどのテクノロジーを社会で利用していこうという立場です。今のAIやLLMは、言いちらかされた言語の群を意味空間に落とし込むことができる技術です。AI技術は比較的恣意性なくビックピクチャー(全体像)を把握できるという意味では、実に役に立つ技術なのです。 しかし、1番大事なのものは何かというと、むしろ「AIにできないことは何かを理解する」ことです。「どこから人間が責任を負うべきか」を見極める精度が高いことが重要となる。AIにできること、テクノロジーにできることがどんどん広がる中で、その限界がわかっている人間が舵取りをすることには、大きな意味があるんじゃないかと思っています。 私は選挙や政治というものが、政治家の考えたことを一方的に発進する「ブロードキャスティング」だけであってはならないと考えています。有権者の皆さんが何を考えているのかを聞くことが非常に重要です。膨大な量の意見の集約は、デジタルテクノロジーによって一定のサポートができる。これを、「ブロードキャスティング」の逆で、「ブロードリスニング」と呼びます。 この「ブロードキャスティング」と「ブロードリスニング」を交互に繰り返しながら、有権者の皆さんとコミュニケーションを取っていくことで、たとえば選挙期間を、みんなで東京の未来のことを考える時間にできる。 東修平(以降、東):「公約の達成」を考えるとき、たとえば「4年前の情報や知識をベースにした公約」を果たすことへのフォーカスが、果たして市民にとって真に幸せなのかという問いはあると思っています。安野さんが示される手法を使うことで、相互に情報共有しながら、絶えず「いま市にとって何が大事なのか」という観点で前に進めていけることは、非常に重要なポイントです。 逆に難しいのが、巨大な意思がクラスタリングされて可視化された時に、より深い情報と知識に基づいて「この未来の方がいいんだ」という決断と説得をしていくというプロセスです。巨大な見えない意志に押し負かされない、政治家の強い意志が、今まで以上に求められるのではないかと思います。 ──今の30代の特徴として、ボーダレス感覚というものがあるように思います。 安野:東京都知事選の際、スタッフは、パリやインド、シンガポール、ボストン、サンフランシスコほか 6拠点くらいのリレー方式で作業を行いました。日本国籍を持ちながら海外で働いている人たちです。結果的に、時差を活用して24時間動き続ける体制が構築できたことは大きな強みでした。 若いスタートアップ経営者たちを見ていると、ボーン・グローバルで動いていて、東京進出など頭にはなく、「世界の中で」自社がどの位置付けにあるかを常に考えている。政治も同じで、「日本の中の東京」ではなく「世界の中の東京」を考えるべきです。 東:まさにその通り。市長2年目のときに、友好都市であるドイツ・メアブッシュ市を訪問しました。現地の議員と議論すると、実は政治家の悩みはどこも同じで「人間関係」だったりする。世界の視点を持つことは、政治的にも大きな意味があると感じた経験でした。