藤井聡太王座、3連勝で初防衛 AIが90%「負け」の局面ひっくり返す 羽生九段の全盛期上回る終盤の逆転力
【勝負師たちの系譜】 藤井聡太王座に永瀬拓矢九段が挑戦する、王座戦五番勝負第3局は、9月30日、京都市東山区の『ウェスティン都ホテル京都』で行われ、藤井が勝って、3連勝で王座初防衛を決めた。 【写真】日本酒を飲んだ藤井聡太氏「すごく辛くてびっくり」 この将棋を一言で言えば、「また昨年と同じことが繰り返されたのか」というのが私の感想だった。 永瀬の先手番で始まった第3局は、両者得意の角交換腰掛銀に。お互いが手待ちをしながら隙を伺う展開となった。 先に動いたのは後手の藤井で、桂交換の後、敵陣に馬を作って迫り、ペースを掴(つか)んだかに見えた。しかし終盤で一つ利かした王手が疑問だったか、形勢を損ね、徐々に永瀬の側に形勢は傾いた。 最終盤になると、永瀬は藤井玉をほぼ受けのない局面に追い込み、勝ちがハッキリ見える局面となった。AIの数値も、いつの間にか90%を超えていた。 さすがにこの将棋は永瀬が勝ったか、と思った瞬間、藤井が放った香の王手が最後の罠(わな)だった。 この部分を再現しよう。合い駒はAかBしかなく、歩を打つAは受けとしては安全だが、相手玉が詰まなくなるため、普通なら絶対に指さない手。 Bの桂を跳ぶ手は、いかにも危ない受けだが、歩が打てれば相手玉は詰むので、実際はBで勝ちだったのである。 しかしすでに秒を読まれている1分将棋。60秒の間に、相手玉の詰みと自玉の詰みを両方読まねばならない。 こういう時間のない時、通常プロは易しい方から先に読む習性がある。 つまり相手玉が詰まなくなれば、簡単に負けだから、危なくてもBを選ぶ。それで詰まされたら仕方ないと。これがプロの、正しい負け方だ。 しかし藤井の詰ます正確さ、速さを誰しも知っているから、つい危ない受けはしたくない、という方向になってしまうのだと思う。 永瀬ほどの精密機械を狂わせるほどの終盤力が、藤井に備わっているということだ。 昨年も勝つ確率90%超えから、2局続けて敗れた永瀬だったが、今年も同じ轍(てつ)を踏んだのは残念だったであろう。 終盤のすでに結論が出ている局面から、逆転勝ちをし続ける棋士は、今まで羽生善治九段の全盛時代くらいしか記憶がないが、藤井はすでに上回っている気がする。