今さら聞けないUSスチール買収計画の「なぜ」…バイデン大統領の阻止に同社CEO激オコ、日本製鉄は猛反発
日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール(USS)の買収計画が泥沼化だ。バイデン大統領の中止命令に日鉄は猛反発。米政府を相手に訴訟も辞さない構えだが、決定を覆すハードルは高い。 2023年12月、日鉄がUSSを約141億ドル(約2.2兆円)で買収することで両社は合意。1株=55ドルの買値は当時のUSSの株価に40%ものプレミアを加えたものだ。①なぜ日鉄は破格の条件で買収に乗り出したのか。 生産量世界一の座を明け渡してから25年。現在は世界4位に転落し、年間1.3億トンと首位を走る中国・宝武鋼鉄集団の半分ほど。トップ10のうち6社を占める中国勢が世界市場を席巻中だ。日本国内の需要は先細りし、海外に活路を見いだすしかない中、舞い込んだのがUSSの身売り話。米国市場は成長が見込め、米中の関係悪化で安い中国製品の参入障壁も高まっていた。 「老朽化施設の更新やリストラ回避を模索するUSS側にも渡りに船。買収が実現すればウィンウィンの関係を築けるはずでした」(経済評論家・斎藤満氏) しかしタイミングが米大統領選と重なり、政争の渦に巻き込まれていく。USSは120年以上の歴史を誇る名門企業だ。米国以外の手に落ちることへの抵抗感から、組合員数約85万人の全米鉄鋼労働組合(USW)が反対を表明。この組織票欲しさが②政治問題化した理由である。 USWは民主党の支持基盤だが、まずトランプが「私なら瞬時に(買収を)阻止する」と口火を切ると、負けじとバイデンも追認。USSとUSWが共に激戦州ペンシルベニアに本社・本部を構えることも政争に拍車をかけた。敗北後も民主党とバイデン政権は将来の選挙に備え、労組の意向を重視。③中止命令の背景には20日に就任する政敵・トランプに「手柄」を与えまいとする意識も働いたのだろう。 「経済合理性よりもセンチメンタリズムを優先させた結果で『安保上のリスク』はこじつけの理由に過ぎません。同盟国・日本まで安保上の脅威とみなすなら『在日米軍は出ていけ』と言わざるを得なくなる。感情論に勝る判断こそ④USSのCEOが『恥ずべきもの』と痛烈に批判した根拠です」(斎藤満氏) ⑤タイムリミットは来月2日。中止命令の一時中断が米裁判所に認められなければ日鉄の買収計画は完全に水の泡だ。 ◇ ◇ ◇ 世界が注目するトランプ米次期大統領の動向。石破首相は結局、就任式の前には会談を行わず、2月以降の訪米で再調整の方向だというが、就任直後のトランプ氏が日本に構っていられるのか。●関連記事『【もっと読む】先が思いやられる石破外交…トランプ大統領就任前には訪米せず、会談先送りの吉凶』で詳報する。