2年半ぶりに全線運行を再開、歴史伝える南アルプスあぷとライン
南アルプスの山間部を走る大井川鐵道井川線、通称南アルプスあぷとライン。平成26(2014)年9月に土砂崩れにより線路がふさがれ、以降、千頭(せんず)駅 ─ 接岨峡(せっそきょう)温泉駅間の15.5キロでのみ運行が行われていたが、今年3月11日、2年半ぶりに千頭駅ー井川駅間の25.5キロが全線復旧した。
大井川鐵道というと昭和期を彩ったSLや電気機関車、客車、さらに近年は「きかんしゃトーマス」など様々な鉄道車両を見ることができ、乗ることができる「動く鉄道博物館」として知られるが、実は本線(金谷駅ー千頭駅)と井川線(千頭駅ー井川駅)とでは、その様相が大きく異なっている。 大井川鐵道ならではのSL運行は千頭駅まで。千頭駅以降の井川線は、赤いミニ電気機関車が客車を牽引する山岳鉄道。線路の真ん中に敷設されたラックレールという歯形レールと電気機関車の床下に設置された歯車を噛み合わせて1000分の90という日本一の急勾配を運行するアプト式鉄道だ。 平成26(2014)年9月2日、終点の井川駅の一つ手前の閑蔵駅(静岡市葵区)の南600メートル付近で、崩れた土砂が線路を覆っているのを巡回中の係員が発見、以降、千頭駅 ─ 接岨峡温泉駅間での折り返し運転となり、接岨峡温泉駅 ─ 井川駅間は不通になっていた。
この井川線、運行は大井川鐵道が担っているが、実は線路から駅舎、そして電気機関車などの車両まで所有しているのは中部電力だという。大井川水系には、数々のダムが築かれ、井川発電所や大間発電所など10を超す水力発電所が稼働している。中部電力によれば、大井川水系での発電電力量は年間約24億kwh。一般家庭の約67万世帯で消費される電力量をまかなっているという。 今日、大井川水系の水力発電事業は中部電力によって行われているが、その草創期、大正から昭和初期にかけては多くの電力会社が割拠し、その開発のための資機材運搬の必要性から鉄道が敷設されたという。大井川鐵道は大正14(1925)年3月、こうした大井川上流域の電源開発、そして森林資源の輸送を目的に創立された鉄道なのだ。 昭和10(1935)年には井川線の前身となる鉄道が大井川電力(当時)によって敷かれ、昭和26年には電力会社間の再編等を経て中部電力が誕生した。井川線の前身となった鉄道は中部電力に継承され、中部電力の鉄道として敷設が進められ電源開発の役割を担ったが、開発の終焉にともない昭和34(1959)年より現在の大井川鐵道に運営が委託され、井川線として今日に至る。