「時速200キロ時代」の終焉 欧州のミニバンはどう進む?
「至れり尽くせり」日本のミニバン
虚心坦懐に見れば、日本車と欧州車どちらにも優れたり進んでいる面はあるが、それはトータルでは決して一方的なものではない。世の中すべからく白黒付かないことの方が多いのだ。是々非々の姿勢を忘れると本質が見えなくなる。 例えば、日本のミニバンを代表するノアの使い勝手に対するこだわりは素晴らしい。もちろん装備はモデルによるのだが、床は完全にフラットだし、大人の乗り降りのための大型の手すりの他に、低い位置にこどもの手のサイズに合わせたこども専用の手すりが用意されている。携帯の充電用に「置くだけ充電式」のQiが搭載され、シートは消臭効果のある表皮で作られている。小荷物のためのポケットやフックなどがそこら中に配され、そこまでやるかというもてなしぶりである。しかし、いざ走らせてみるとという話はこれまで書いた通りである。 一方で、フォルクスワーゲン・シャランでシートアレンジの訴求点をみると「シートがスライドできます」「リクライニングできます」「ワンタッチで畳めます」という具合で、日本車の感覚でいうと「できなきゃ欠陥」と思うレベルの話しかない。これではノアに対抗できるわけがない。しかしひとたびハンドルを握れば、直進安定性は段違いに良いし、なにより反応が自然だ。シートも座る機能しかない代わりに、床やシートフレームの剛性不足に起因する余計な振動に悩まされたりしない。 できるなら、シャランの走りでノアの使い勝手と言いたくなるところだが、それではおそらく価格が折り合わない。価格に折り合いをつけようとすれば、日本の顧客と欧州の顧客では求めるものが違う。だから製品も違う。それだけのことなのだ。 一足早くミニバン・ブームを迎えた日本は、2000年代の前半にその試行錯誤の時代を終えた。欧州はまだ試行錯誤の最中にいる。求められるものが違うマーケットの中で、欧州のピープルムーバー&ミニバンブームがどのように答えを出して行くかは極めて興味深いのである。 (池田直渡・モータージャーナル)