「時速200キロ時代」の終焉 欧州のミニバンはどう進む?
渋滞だらけになって時速200キロの世界がなくなったとは言っても、欧州では時速100キロレベルで自然な運転フィールが保てないようでは売れない。だから日本の様にワンボックスタイプのミニバンではなく、多少なりとも重量、車高で有利な乗用車ベースのピープルムーバーが主流なのだ。 では欧州には日本のノアに相当するようなミニバンはないのかというと、そういうわけではない。初代ノアが商用車であるライトエース/タウンエースのシャシーから派生して誕生したように、商用車派生のモデルがある。ベンツのVクラスやルノー・カングー、フォルクスワーゲンのT5マルチバンといったクルマだ。あるいは出自は少し違うがフォルクスワーゲンにはフォードと共同開発したシャランもある。
「直進安定性」が求められる欧州
これらのクルマは前述の時速100キロでの直進安定性レベルの課題をクリアできている。そこは日本のミニバンと違う。しかし犠牲を払わずにそれがかなえられるわけはない。Vクラスは乗り心地が犠牲になっているし、カングーは2列シートで5人乗り、とてもよいクルマではあるが、日本式のミニバンでは「最低7人乗り」が求められるのでクラスが違う。T5はセミトレーリング式の高級なリアサスペンションを採用してこのクラスで世界一の出来だと言われているが価格も世界一。国内で売ろうとすれば800万円オーバーは確実、1000万円に近い可能性もある。値付けに困ったフォルクスワーゲン・ジャパンは日本導入を見送ってしまった。 要は様々なリソースの振り分けバランスにおいて、日本は高速安定性を見切って、エアボリュームと快適装備と価格の安さを取ったが、欧州のミニバンは乗り心地なり価格なりといったその他の部分を見切ったという配分の差があるだけである。そしてそれを求めているのはそれぞれの市場だ。 今後、欧州ミニバンがどうなっていくのかと言えば、乗用車派生のミニバンは相当な勢いで拡大すると思われる。特に注目されるのは、プレミアム化の流れだ。ベンツもBMWもアウディもそうしたモデルを開発中で、各社のただでさえ混乱中にあるモデルラインナップはさらに錯綜していくだろう。 かつてそれを戦略的に上手く利用して切り抜けたメーカーがある。トヨタである。サイズと高さと乗員数の順列組み合わせモデルを全部リリースしてマス目を全部埋めたのだ。ラウム、ナディア、イプサム、ガイア、ウィッシュ、カローラ・フィールダー、カルディナなど、とても全部は書き切れないほどの大量のモデルを試し打ちし、市場で発展性が認められたモデルのみをピックアップして、不要なコマを全部整理した。勝ち組にしか取れない大人げないパワープレイではあるが、勝者としては明らかに勝ちの見込める戦略だった。