機体空中分解で102人死亡! 規制緩和が生んだ史上最悪の航空会社、インドネシア「アダム航空」をご存じか
深海で明かされた悲劇の真相
アダム航空の実態が明らかになるきっかけとなったのが、2007年1月1日の事故だった。ジャワ島のスラバヤからスラウェシ島のマナドに向かっていたアダム航空574便が海上で失踪し、その後、空中分解して墜落したことが判明した。この事故で、乗員乗客102人が命を落とした。 直接の原因は、機体が自動操縦から手動操縦に切り替わり、操縦士が機体の傾きを忘れて急降下してしまったことにあった。しかし、この手動操縦への切り替えが発生した背景には、運航機の慣性航法装置(IRS)が故障して現在地が不明となり、機体に欠陥があったことがある。 墜落後、約10日間が過ぎた後、スラウェシ島近海で機体の一部が発見され、墜落が確認された。しかし、機体は深さ約2000mの海底に沈んでおり、捜索は難航した。インドネシア政府は原因究明のため、アダム航空に捜索費用の負担を求めたが、アダム航空はこれを拒否した。このため、事故の真相究明は停滞してしまった。 事故から7か月後、ようやくアダム航空は深海での捜査費用負担に合意したものの、支払った金額は1週間分のみだった。 さらに、海底での操作が数か月もかかり、ブラックボックスのバッテリーが切れていたため、正確な位置情報の特定が難航。結局、ブラックボックスは1週間後に発見されたものの、その後のデータ復旧作業も遅れ、事故の原因が完全には解明されない危機的な状況に陥った。
過酷労働とルール違反の実態
アダム航空には、急成長の裏にあまりにもずさんな実態が隠されていたことが内部監査や報道の批判で明らかになった。 具体的な問題点は次のとおりだった。 ・航空当局から飛行許可が下りない航空機に対して、飛ばせるよう書類を偽造して提出していた。 ・ドアのハンドルが故障していたり、数か月も損傷した窓を持っていたりする航空機を運航していた。 ・スペアパーツは他の航空機から流用され、ルール違反が行われていた。 ・パイロットは、飛行の限度時間を5倍も超えて働かされていた。 ・パイロットが安全上の理由で離陸中止を求めても、その要求は拒否されていた。 ・IRSの故障時の対応方法など、パイロットの訓練が不十分だった。 こうした不正や事故のリスクに対して、現場では強い不満が募っていた。あるパイロットは、経営陣や地上スタッフとルール違反を巡って衝突することが日常茶飯事だったとインタビューで語っている。 実際、アダム航空はナビゲーションシステムの故障をパイロットが報告していたにもかかわらず、そのまま飛行機を飛ばし、予定地から500km以上離れた場所に着陸するという、574便の事例と似た重大インシデントを起こしている(幸い、このケースでは近くに空港があり人員に被害はなかった)。 アダム航空は、従業員の声を無視し、違反行為を繰り返すブラック企業だったといわざるを得ない。