2万色のファンデーションとダイバーシティ なぜ日本ロレアルは女性管理職比率50%超を達成できるのか
個を大切にするカルチャーが、女性のキャリア形成のハードルを下げる
――女性管理職比率が全社員の女性比率とほぼ同じ54%で、育休復職率が100%など、ジェンダーを問わず活躍できる環境があるようですが、実現するために人事施策として取り組んだことはありますか。 採用書類の入力項目から性別欄を撤廃するなどの取り組みは行っていますが、明確にDE&I推進や女性活躍推進を目指した人事施策を取り入れているわけではありません。ただ、もともと人材育成の考え方が特徴的で、それが多様な人材の活躍を後押ししています。 当社には、入社後何年たったら昇進するといった、人材育成のひな型がありません。基本的には本人と上長と人事がお互いの希望をすり合わせることで、社員のキャリアパスを定めています。 まず社員には「今後どのような仕事をやってみたい」「どのような働き方をしたい」という希望を明確に提示してもらいます。それに対して会社側から、組織としての期待を伝えたり、希望をかなえるために強化すべきスキルや能力を伝えたりするなど、コミュニケーションをとりながら一人ひとりとキャリアのすり合わせを行っています。 こうした仕組みが個人のキャリアを形成しやすくし、女性社員の定着率を高め、結果として管理職や上級管理職に進む女性が育っていったのではないかと考えています。 ――とても丁寧にコミュニケーションをとっているのですね。具体的にはどのような機会があるのでしょうか。 1on1のような上司との面談「コネクト」を行っています。コネクトセッションでは、まず社員のパフォーマンスの棚卸しをします。そのうえで、社員から上司に今後の希望を伝え、お互いにフィードバックをし合います。 コネクトセッションの啓蒙や、セッションをより有意義なものにするための研修にも力を入れ、風土・習慣として根付くように働きかけています。年に2回、それぞれ1ヵ月の間にコネクトを実施するのですが、期間中は全社集会で社長や人事部長がコネクトの重要性を話すなど、プロモーションを強化。社内モニターや全社メールなどを駆使して、定期的に社員にコネクトの重要性や進捗情報を伝えていきます。さらにはコネクトの設定、記入、面談方法などのウェビナーを開催して些細な疑問にも対応し、実施をサポートします。 ――コネクトを有意義な機会にするためには、上司の手腕が問われそうですね。 部下を持つ方に対するトレーニングも、丁寧に実施しています。例えば新任管理職には、普段感じている悩みを共有する機会を設けています。数名で話し合ったケースに対し、管理職としての経験が豊富な社員からのフィードバックや助言を受けられる、というものです。 ――「コネクト」では、社員も自分の希望をはっきり伝えることが重要になりそうです。自らの意見を話してもらうために工夫していることはありますか。 日本人は意思表示が苦手と言われることもありますが、自分がどうしていきたいかは大なり小なり持っているものだと思います。初めからうまく話せる人ばかりではありませんが、何度かコネクトを経験するうちに「こういう形で自分の希望を伝えればいいんだ」と慣れていくようです。 また、自由に希望を伝えられる空気が組織にあることが、意思表示のしやすさにつながっていると感じます。もちろん、やりたいと言ったことが必ずしもかなうわけではありません。一方で、自分の意思を示すことがマイナスになることもありません。変に自分を取り繕わなくていいと感じている社員は多いのではないでしょうか。 たとえば、異動は決定前に本人に打診しますが、断っても全くペナルティーはありません。私は転職してきた当初、実は「断ったらこっそり点数が下がるのではないか」と疑っていました。しかし、本当にそんなことはないのです。本人が高いモチベーションを持って仕事をしないと、ベストなパフォーマンスは出せないと考えているからです。もちろん、ためらっている人に対して会社としての期待値伝え、前向きに考えてくれるようにコミュニケーションを取ることはあります。ただし、本人の意思に沿わないことを無理強いはしません。 ――メンバーレベルでも、自分を取り繕わなくていい雰囲気や、意思表示がマイナスにならない安心感が同じようにあるのでしょうか。 前提として、チーム内で自分の情報をどこまで開示するかは、その人が決めることです。そのうえで、チームメンバー同士が「それぞれ違って当たり前」という認識のもと、あまり相手を詮索することなく、互いを尊重していると感じます。 こうした環境を可能にしている要素の一つに、ジョブ型の人事制度が挙げられます。当該年度にすべき業務を達成したかどうかで査定が決まるので、自身の成果を出すことが全てです。 同じ部署で同じ年齢の人がいたとしても、必ずしも同じ職階ではありませんし、会社から課せられている目標の内容やレベル感も違います。お互いに開示しなくても、みんながそれぞれの目標に向かって走っていることが共通認識としてあり、その結果、チームとしてパフォーマンスを上げられていれば良いと考えています。個々の働き方やアプローチの差によるあつれきがゼロだとは言いませんが、生まれにくいカルチャーだと思います。自分自身が尊重されていることを感じられることが、他の社員を尊重することにつながっているのかもしれません。