2万色のファンデーションとダイバーシティ なぜ日本ロレアルは女性管理職比率50%超を達成できるのか
制度や仕組みを整えるだけでは不十分。大切なのは人材に対する根本的な考え方
――女性社員の育休復職率100%で、フルタイムで戻る社員がほとんどとのことですが、それも本人の希望をしっかり聞き、応えているからなのでしょうか。 復帰前面談は時間をかけて丁寧に行っています。当社では産休・育休に入った社員のポジションにすぐ人員を補充するので、復職する際は全く違う部署に配属されることもあります。復職前面談で、どのような職務や勤務形態で戻りたいのかを細かくヒアリングして、できるだけ希望をかなえるようにしています。それが結果的に復帰後の満足度ややりがいにつながっていると思います。 他社からは、「ポジションを空けておかないと、復職のポジションが用意できないのでは?」と聞かれることもありますが、問題なく回っています。女性社員の割合が多いこともあり、毎年ある程度の人数が育休に入るのですが、復帰する人もいるので、うまく循環しています。 また、ブランドごとに組織が分かれているので、ブランドAでマーケティングを担当していた社員が、復職時は新たにブランドBでマーケティングを担当するなど、横スライドがしやすい組織構造も結果につながっているのかもしれません。 ――今後、取り組みたい課題や展望はありますか。 女性役員の増加に取り組みたいと考えています。管理職の男女比率は、全社員の男女割合とほぼ同程度ですが、役員では4割前後と少し下がります。できるだけ早い段階で社員全体と同じ比率にしたいと考えています。 もう一つは、男性の育児休業取得率です。男性はまだ取得率が7割程度なので、100%を目指したいですね。 ――いずれも一般的な数値よりは高くなっていますが、個を大切にするカルチャーによるものが大きいのでしょうか。 「個を尊重する」のは、ロレアル本社があるフランス、ヨーロッパの文化的背景に根付いているものだと感じています。一人ひとりの希望や思いを尊重することで初めて高いパフォーマンスが生まれる、という考え方は、当社にもしっかりと受け継がれています。 これは日本ロレアルの見解というより私個人の見解なのですが、大事なのは、目先の制度や仕組みを整えることではなく、根本的な人材に対する考え方だと思います。会社としての価値観や姿勢が曖昧なまま施策を導入しても、本当の意味でのDE&I推進にはつながりません。会社が多様性の重要さをしっかりと認識し、体現していくことで、本当の意味で多様性が推進されるのではないでしょうか。
プロフィール
楠田 倫子さん(日本ロレアル株式会社 ヴァイスプレジデント コーポレート・レスポンスビリティ本部長) くすだ・ともこ/国内金融機関、米系消費財メーカーを経て1999年日本ロレアル入社。さまざまなブランドでマーケティングやブランド事業統括職を歴任。2020年にヴァイスプレジテントに就任し、2022年9月よりコーポレート・レスポンシビリティ本部長、現在に至る。日本におけるサステナビリティプログラムやCSR活動を統括するとともに、企業倫理、人権、DE&Iの推進・遂行を担う。日本ロレアルエクゼクティブコミッティーメンバー。