ジュビロ磐田の名波浩は、なぜ中村俊輔を欲しかったのか?
まるで悪戯小僧のような笑顔を浮かべながら、ジュビロ磐田を率いて4シーズン目になる名波浩監督が周囲を取り巻くメディアに質問を投げかけてきた。 「昨シーズンのウチで、スルーパスからのフィニッシュが何本あったと思います?」 予期せぬ展開に沈黙が訪れる。13日に東京国際フォーラムで開催された、すべてのJクラブの監督と中心選手が一堂に会したキックオフカンファレンスでのひとコマ。現役時代は黄金の左足を擁し、そこから繰り出されるキラーパスを代名詞とした44歳の元日本代表MFがたたみかけてくる。 「何となく、ざっくりでいいよ。ゴール数じゃないよ。スルーパスからシュートを打った回数。1試合平均じゃなくて、年間で何本あったか」 J1のリーグ戦は年間34試合。平均で3本放ったとして、トータルで100本くらいだろうか。その数字を伝えると、指揮官は「普通に考えれば、そんな感じだよね」と今度は苦笑いしながら答えを明かした。 「4本しかない。年間で4本しか、スルーパスからシュートを放っていない。4点じゃなくて4本。その数字を見たときは驚愕したよね」 名波監督自身、少ないだろうと察しはついていた。昨シーズンの攻撃の核を担ったのは、元イングランド代表の肩書をもつジェイ。190センチ、89キロの巨体を駆使して、相手ゴール前で圧倒的な存在感を放つ。攻撃は必然的に、ジェイが優位に立つ高さと強さを生かすパターンに特化される。 「これは多いよ、これは」 左右両方の手で弧を描くゼスチャーを繰り返しながら、要は左右からのクロスが多かったと振り返りながら、指揮官はこう続けた。 「あんなにデカいのがいれば、ターゲットマンとして合わせやすいからね。そういうサッカーをやりたかったわけじゃないけど、ジェイのストロングポイントを生かさないといけない。ウチはクロスの質もいいから、そこも生かさなきゃいけないとなったら、みんながそっち(クロス)に寄りすぎちゃった」 このオフに、チーム最多の14ゴールをマークしたジェイが退団した。現時点でフォワード登録の選手は3人しかいない。28歳の齊藤和樹は17試合に出場して無得点。U‐19日本代表で活躍したルーキーの小川航基は、リーグ戦のピッチに立つ機会はなかった。 そこへハリルジャパンで5試合起用され、1ゴールを決めている川又堅碁が名古屋グランパスから完全移籍で加入。再編成を余儀なくされる状況になったが、名波監督に悲壮感はない。むしろ鹿児島でのキャンプは「守備のオーガナイズにほとんどの時間を割いた」と振り返る。