ジュビロ磐田の名波浩は、なぜ中村俊輔を欲しかったのか?
開幕まで残り2週間を切った。それでも余裕あふれる表情を浮かべていられるのは、横浜F・マリノスから加入した稀代の司令塔の存在を抜きには語れない。日本代表における背番号「10」の後継者でもある、中村俊輔へ寄せる全幅の信頼感はこの言葉が何よりも象徴している。 「そこ(中村俊輔)だけをとらえてくれれば、今シーズンのウチの何が変わるかは一目瞭然。俺はクロスという言い方が好きじゃなくて、クロスもラストパスとずっと言ってきたけど、俊輔が入ることでクロスを含めたラストパスの精度がさらに上がるわけだ」 ニューイヤーカップを含めたここまでの実戦で、代名詞でもある背番号「10」を託された中村はトップ下に入った。攻撃にはほとんど手をつけていないのも、まずはパスの出し手と受け手の間で、お互いの特徴やプレースタイルを把握し合う時間に当ててきたからだ。 キャプテンのボランチ上田康太も、中村の加入で生じつつある化学変化に表情を綻ばせる。 「ボールを握れる時間が増えると思うので、どこからどのようなアイデアを出し合って相手を崩していくか。やっぱり俊さんからボールが出てくると信じて、みんな走り出すようになるんじゃないかと」 そのなかで指揮官は「コイツとコイツを組ませたら、こんなことが起きるんだ、というのが何パターンかあった」とも笑う。具体的な選手名には触れなかったが、中村と川又、あるいは中村と神奈川・桐光学園高校の後輩でもある小川の関係をさしていると容易に察することができる。 現役時代はセットプレーのキッカーも担った指揮官は、フリーキックやコーナーキックからゴールが生まれる確率として「キッカーが7割、中に入る選手が2割を占めて、あとの1割は相手が関係してくる」を持論としてきた。 しかし、正確無比な左足がいまだ健在の中村の加入は、昨シーズンはセットプレーから直接ゴールインした回数がわずか「2」だったジュビロの攻撃を鮮やかに変えようとしている。 「8割の比重を占める素晴らしいキッカーがウチにいる、ということは大きいよね。あとはキッカーと中に入ってくる選手とが、いろいろと話し合って決めればいい」 新チームが始動してからしばらくして、全体練習が終わると同時に、名波監督からこんな声がかかるのが日常茶飯事となった。 「居残って練習したいやつは20分間で」 チーム全体に向けて発しているようで、その実は中村が対象だと指揮官は打ち明ける。 「何も言わなかったら、それこそ小1時間くらいはずっとやっちゃうから。去年までのウチは、ベテランと呼ばれる選手が居残って練習しなかった。それをアイツが率先してやっていることで、すごく影響を与えているよね。シュートやパス、もちろんフリーキックといろいろな練習をしているし、一緒に練習するゴールキーパーもさまざまな球種が飛んでくるので、もちろん練習になっている」