人間関係の悩みを解決に導く、年400回以上開かれる僧侶の「心の授業」とは?
良い話も聞いてもらわなければ意味がない
大谷さんは講演の冒頭で瞬時に人の心を掴む。研修の一環や付き合いで仕方なく、しぶしぶ講演におとずれた人も、良い意味で予想を裏切られ、気が付くと真剣に耳を傾けている。僧侶なので仏教がベースの話には違いないが、宗教的な押しつけはまったくなく、生きる上で何が必要かをわかりやすく説く。講演中、折に触れて聴講者自身に手足を使って何かさせたり、時には壇上に招いてともに作業をさせたりする。こうすることで、聴講者たちは単なる聴き手ではなく、参加者になる。「良い話も聞いてもらわなければ意味がない」と話す、大谷さんならではの創意と工夫が随所に見られる。 「両手を広げて見て下さい。そして、動け!、と言ってみて。自分でそう思えば自分の手は動きます。では、隣の人の手を見て、動け! と言ってみましょう。どうですか? 動きますか? 動きませんよね。その手を動かすことは自分にしかできないからです」と語る大谷さんの声は大きく迫力がある。講座は勢いよく、そしてテンポよく展開される。大谷さんの口から発せられる言葉には、ハッとさせられることが多く、うかうか居眠りしているような隙を与えない。 当たり前の日常には、思いのほかたくさんの苦難が潜んでいる。友人関係や職場での同僚、上司との関係、家族との関係で生じる不調和音、社会の不条理、時には自分自身と対峙した際に感じるジレンマや苦悩。大谷さんはそうした「当たり前」だけれど重要な問題を僧侶ならではの視点で解きほぐし、別の切り口を見せてくれる。僧侶だから、ビジネスの話をするわけでは決してない。それでも、大谷さんの言葉が多くの人にヒントを与える。それを受け取って、なんとか自分を立て直せたという人たちは多い。 仕事においても、家庭においても、友人関係においても、自分の人生は誰も代わってはくれない。大谷さんはいう。 「たった一回の誰も代われない人生をどう歩くかは、自分としっかりと対話して、自分で決めなければなりません。私は〈鍵〉は開けられません。ただ、〈ドア〉まで人を連れていくことはできます。〈鍵〉を開けるのは、決めるのは、あなた自身です」 なにせ年間400回もの講演をしているのだから、きっとあなたの近くの町にも大谷さんは現れるはず。機会があれば一度、大谷さんの講演に参加してみてはいかがだろうか。仕事はもちろん、生きる上でのヒントを授かることができるはずだ。 (取材、文:平松温子) 大谷徹奘(おおたに・てつじょう) 1963年、東京都生まれ。17歳で故・高田好胤薬師寺住職に師事。2017年薬師寺副執事長就任、現在に至る。『こころの薬』(北國新聞社出版局)、『よっぽどの縁ですね―迷いが晴れる心の授業』(小学館)ほか著書多数。