新聞に軽減税率を適用へ「特別扱い」は妥当なのか?
販売店への配慮の側面
なぜ新聞業界は市民の反感や現場の異論を封じ込めるように、今回の決定をひたすら求めたのでしょうか。 「もちろん経営にかかわるからだが、特に販売店との関係が大きい」とするのは、元毎日新聞社常務の河内孝氏です。 「もし新聞が軽減税率の対象から外れ、値上げを許したら販売店がやる気を失ってしまう。この問題は販売店に対する『モラル・サポート(士気を下げないための支援)』の面がある」 河内氏の指摘は、今回の与党合意で「宅配」の新聞のみが対象とされた結果とも符合します。社や地域ごとに体力差のある販売店網への配慮は、譲れない一線だったと言えるのでしょう。 しかし、河内氏は8年前の著書『新聞社―破綻したビジネスモデル』の中で、こうした特例措置を引き受ける前提として、販売店への「押し紙」などの不透明な過当競争を廃した販売の正常化や、業界再編を含めた経営合理化が不可欠だと問題提起していました。5%から8%への消費増税が議論され、やはり新聞業界が軽減税率適用を訴えていた時代です。 「新聞業界は構造不況に陥っており、再編成や合理化が避けられない状況は変わらない。軽減税率はカンフル剤として一時の痛みは和らげるかもしれないが、根本的な問題の解決にはならないだろう。むしろ経営は改革が遅れ、編集は権力に首根っこをつかまれることになり、長い目で見てプラスにはならない」と河内氏はあらためて厳しい見方を示しました。
建前と現実の大きな落差
「総論賛成、各論反対」だとするのは、メディアの倫理や法制を研究する上智大新聞学科の田島泰彦教授です。 「新聞に限らず、報道機関は民主主義社会の世論形成などに大きな役割を果たす。そうした原理原則と、ある種の優遇が必要なことは認めたい。しかし、今回の軽減税率に対する新聞業界の姿勢を見ると、とても諸手を上げて賛同はできない」 田島教授が疑念を抱くのは、建前と現実とのあまりにも大きな「落差」があるからです。