訪朝団派遣はリスクだらけ 北朝鮮の本性と崩壊寸前の内情を見抜け / 早稲田大・重村教授
北朝鮮が拉致調査の初回報告を一方的に遅らせ、日本に訪朝団の派遣を要求している。日本側も政府筋から「訪朝のリスクはない」とのコメントが出るなど、訪朝団派遣を前向に検討しているとみられる。北朝鮮の狙いと、日本政府が取るべき対応とは何か。朝鮮半島問題が専門の早稲田大学大学院国際コミュニケーション学科・重村智計教授に話を聞いた。(河野嘉誠)
訪朝にはリスクしかない
内閣府で10月1日におこなわれた外務省の説明会では、拉致被害者の家族から訪朝団派遣に対する疑問の声が相次いだ。増本るみ子さんの弟・照明さんは「向こうのプロパガンダに乗るようなことがあってはいけない」と危惧を示した。横田めぐみさんの母・早紀江さんも「何の情報もないなかでピョンヤンに行くことには賛成できない」と述べた。 北朝鮮問題に詳しい早稲田大学大学院国際コミュニケーション学科・重村智計教授は家族会の指摘は正しいとした上で、「訪朝団の派遣にはリスクしかない。訪朝団が平壌に行けば日本外交が敗北し、行かなければ北が譲歩する」と警告する。また「過去の日朝交渉において、日本側が平壌を訪問して成功したことはない。北朝鮮は日朝交渉における拉致問題の優先順位を低下させたいと考えている。政府当局者は、北は工作国家で日本に対しては常に悪意の国家であるということを良く理解すべきだ。訪朝団が実現されれば安部首相は赤恥をかき、支持率は急落するだろう」と話した。
村山訪朝団や森訪朝団など、過去の訪朝団はいずれも北朝鮮の工作に利用されてきた。平壌では東京との電話や通信が盗聴されるおそれもあり、外交上有利な環境とはいえない。訪朝団が平壌で「拉致被害者の墓」とする施設に連れて行かれたり、拉致被害者はすでに死亡したという証言を聞かされる危険もある。重村教授は国際社会に与える影響も大きいと懸念する。韓国が不安になり、南北交渉の再開や経済援助へ動き出す可能性がある。日本側が十分な説明をしなければ米国側も疑心暗鬼となり、対北政策における日米中韓の連携に支障をきたすという事態もあり得る。