訪朝団派遣はリスクだらけ 北朝鮮の本性と崩壊寸前の内情を見抜け / 早稲田大・重村教授
政府筋には訪朝団の派遣により、当局者とのパイプ作りができるとの見方もあるようだ。しかし、拉致問題の進展が約束されているわけでは全くない。北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)日朝国交正常化担当大使は1日に行われたNHKとの単独インタビューにおいて、「(平壌での報告内容について)それは分からない。調査委員会のメンバーに聞く話だ」と曖昧な回答に終始している。 訪朝の危険性はこれだけではない。「来てほしいという北側の要求に日本がタダで乗れば、これまでの日朝交渉を貫いてきた行動対行動の原則も壊れる。日本政府は少なくとも北朝鮮が拉致調査報告などの見返りを確約しない限り、訪朝団の派遣を見送るべきだ」(重村教授)。
追い込まれているのは北朝鮮
日本側が担当者の平壌派遣に前向きなのは、日朝交渉の成果が思うように挙らないことへの焦りがあるのかもしれない。北朝鮮は9月18日に「調査はまだ初期段階にあり、この段階をこえた説明はできない」と日本側に通告し、夏の終わりから秋のはじめに予定されていた拉致調査の初回報告を一方的に延期した。北朝鮮は中国・瀋陽で29日に開かれた外務省局長級協議でも同様の主張を繰り返し、初回報告の期限を示さなかった。日本の一部報道には報告の遅れを理由に経済制裁再発動をほのめかせば、再調査が白紙に戻るのではという声も出始めている。 過去40年にわたり日朝交渉を研究してきた重村教授はこうした見方に対し注意を促す。「日本側が交渉を決裂させる覚悟を示せば、北は譲歩するという判断力が必要だ。北朝鮮は拉致被害者の情報をすでに把握している。再調査は壮大な芝居にすぎず、北の揺さぶりに屈してはいけない。困っているのは日本ではなく、北朝鮮だということを認識すべきだ」。 北朝鮮は米国や国連の金融制裁に加え、昨年からは中国主要銀行からのドル送金も中止になった。中朝パイプラインの原油供給も今年一月からストップしたままだ。国内では権力闘争が続いており、不安定な状態が続いている。最高人民会議を欠席した金正恩第一書記の健康問題も取り沙汰されており、糖尿病が悪化しているとの情報も出ている。北朝鮮は崩壊の危機に瀕しているのだ。 内憂外患に苦しむ北朝鮮にとって、喉から手が出るほど欲しいのが日本の人道支援と独自制裁の解除だ。日本側が効果的に交渉を進めれば、拉致問題の解決が可能な状況にあるのは間違いない。だが、日本側が北朝鮮の工作に乗っかり安易な譲歩をすれば、北は拉致問題という交渉カードを温存するだろう。重村教授は、日本政府にいま必要なのは拉致問題の解決を全面に押した交渉姿勢だと忠告する。「相手の弱みを突いて譲歩を引き出すのが、外交交渉の鉄則だ。日朝交渉が決裂して何も獲得できなければ、北の経済は回らない。北もそうした事態は何としても避けたいはずだ。日本政府は拉致問題の全面解決のためにも、『拉致が解決しない限り、人道支援はしない』という強い姿勢で対応する必要がある」。 安倍晋三首相は29日に招集された臨時国会の所信演説のなかで「全ての拉致被害者の家族が自身の手で肉親を抱き締める日まで私たちの使命は終わらない。今回の調査が全ての拉致被害者の帰国という具体的な成果につながるよう『対話と圧力』『行動対行動』の原則を貫き、全力を尽くす」と述べた。拉致問題の解決を自らのライフワークと位置づける安部首相だ。工作国家・北朝鮮の手口に屈するわけにはいかない。