容疑者が海外に行っても引き渡し可能? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
外国人容疑者は「逃げ得」なのか
では米韓を除いた外国人は「逃げ得」なのでしょうか。まず国内で身柄を押さえれば何ら問題ありません。2007年改正の入管法で入国審査の際に指紋を採取するようになりました。犯罪捜査にも利用できます。 また帰国した外国人容疑者の祖国に対して代理処罰を求め、その国で罰してもらうという方法もあります。05年に起きた静岡県浜松市の事件の容疑者も2010年、ブラジルで強盗殺人などの罪で禁固34年5月の判決が確定しました。 険悪な関係にある中国と条約を結ぶのは現時点で難しいでしょう。でも日本で罪を犯した中国人にとって母国が優しいとは限りません。何しろ世界一の死刑大国です。2003年に起きた福岡一家4人強盗殺人事件の容疑者(3人とも中国人)のうち2人は中国へ帰国しました。両方とも逮捕・起訴され、1人は1審で死刑判決、最終審(中国は2審制)が棄却されてまもなく2005年に死刑執行。もう一人も同時期に無期懲役が確定しました。一方、日本で起訴された1人は2011年に死刑が確定したものの執行されていません。すべて共産党の指導下にあって司法も三権として独立していない中国でいったんクロと認定されたらほぼ覆らないのです。 「逃げ得を許す国」と国際的なレッテルを貼られたら、経済連携協定の締結が滞ったり、自国民の海外進出をしにくくなる恐れがあるので一定の歯止めは期待できます。 とはいえ、外国人が今後増加に転じる可能性もあるし、「観光立国」を目指して短期の観光客も2013年、初の1000万人超えを達成しました。代理処罰や条約なしでの引き渡しが可能だった背景に、日本の経済的な影響力もありましたが陰りが出ているのも事実。「今まで何とかやってきたから」でなく主要国との条約締結ぐらい真剣に考える時期が来ているのかもしれません。
--------------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】