容疑者が海外に行っても引き渡し可能? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
英仏は100か国前後と結ぶ
引き渡し条約を100か国前後と結んでいるのがイギリスとフランス。両国とも戦後の欧州統合の機運から生じたヨーロッパ犯罪人引渡条約(1957年)で多数の欧州諸国間と連帯したので数が多い上に、友好関係を築いている旧植民地国ともいくらか結んでいます。1992年発足の欧州連合(EU)以降も、2002年に欧州逮捕状枠組決定を制定し「ヨーロッパ逮捕令状」が出されるようになりました。現在各国とも国内手続きを完了させたり検討したりしています。 アメリカや欧州が引き渡し条約に積極的なのは、移民が多いという背景もありそうです。フランスは日本の半分程度の人口ですが、移民は日本に住む外国人の倍程度います。アメリカはそもそも移民の国で、年間50万人から80万人規模を新たに迎え入れています。ひるがえって日本に住む外国人は上記のように少なく、1990年の入管法改正で緩和されたとはいえ移民そのものは認めておらず、一定の技能や知識を持つ人や外国人の技能実習制度(中国人が多い)に基づく者などが新たに迎え入れられているのみです。
引き渡し条約のネックとなっていると盛んにいわれている「日本に死刑制度があるから」との関係はどうでしょうか。外務省も論点の1つではあると認めています。条約を結んでいるアメリカは州によって制度があり、韓国も条約締結時点では執行も含めて存在しました。一般論として、法制度が近ければ条約を結びやすいものの、各国の状況をみると近ければ結ばれているというわけでもありません。 しかし今後、特にEUなど死刑廃止国が多いところと引き渡し条約を結ぼうとすれば、問題になる可能性は否定できません。おそらく日本の刑法および特別刑法で最高刑が死刑の犯罪に関しては引き渡さないという条件をつけてきそうです。国連も「国連犯罪人引渡モデル条約」という「ひな形」を1990年に採択しており、政治犯や難民条約の定義による難民などを「引き渡してはならない」とし、死刑制度があると「拒否できる」とあります。外務省が表向き条約の「ニーズ」、つまり優先順位が高くないと言うのは、ここに触れたくないという思惑も勘ぐってしまいます。