「ありのままで幸せだと思える社会」とは?福祉を起点に新たな文化の創出を目指す「HERALBONY(ヘラルボニー)」が目指すもの
アートが生理の話をするきっかけに
高井 ありがとうございます。作家さんのバックグラウンドをいきなり考えるのではなく、まずは目の前のアート作品と向き合うことが一番ですね。 生理用ナプキンの個包装にヘラルボニーの作家さんの作品があしらわれた「エリス コンパクトガード」とのコラボも素晴らしい取り組みです。自分でも驚くほど生理中の気分がポジティブになりました。 忍岡 そう言っていただけるとうれしいです。プロジェクトを担当した女性が家に置いていたら、5歳の娘さんが「かわいい! ママこれ何?」と反応してくれて、生理の話がポジティブにできたと話していました。デザインやアートから生理の話ができるっていいですよね。 ヘラルボニーの雑貨や洋服も「持っているとエンパワーされる気がする」「お守りです」と言っていただくことが多いですね。ある方は「作品を見て、自分は生きていていいんだと思えた」と言ってくださって。きっと、存在を肯定された作家さんたちがのびやかに描かれていることが伝わるのだと思います。一人でも多くの方に、そんな体験をしていただけたらうれしいですね。
家族や本人、そして社会に与えるインパクト
高井 本当にすごいパワーと可能性がありますよね。ヘラルボニーは社会を変える存在だと感じます。こうして目に見える形で展開をされることで、作家さんご本人やご家族からの反応はいかがですか。 忍岡 ご家族は、ご本人が子どもの頃にまわりの親御さんから「一緒に遊ばせないで」と言われたり、親族から「かわいそう」と言われたり、親としてもしんどい経験をされることが多く、「自分は先に死ねない」と強い思いを抱えていらっしゃる方も少なくありません。そんなお子さんの絵があしらわれたプロダクトや、周囲からの「かっこいいね。誇らしい」という言葉に救われたというメッセージをいただいたりします。 作家さんは、一人一人まったく反応が違いますね。全然気にしない方がいれば、描くことで喜ばれるという実感から自己肯定感も上がり、「もっと描きたい」と意欲的になる方もいます。影響はさまざまですが、今まで社会との接点が「支援する人」と「支援される人」だったものが、「誰かに喜ばれる」という体験になっているのはいいことなのかなと。 それから面白いのが、特別支援学校などで絵を描く時間に「それ、ヘラルボニーに使われるかもよ!」といった声があがるようになったそうです。特別支援学校の場合はどうしても将来の選択肢が限られてしまうのですが、そこに「ヘラルボニーの作家になる」という選択肢が生まれるインパクトは大きいと思います。 高井 本当に素敵なお話ばかりですね…! 最後に、今後の展望についてお伺いできますか。 忍岡 まだまだ知名度も低く、これからの会社だと思っているので、さまざまなコラボレーションやプロダクトを通して、まずは日本の3人に1人ぐらいが知っている会社にしたいと考えています。 そして、海外展開はここからチャンスをしっかり掴みたいと思っています。今年7月には当社初の海外拠点としてパリに現地法人を設立しました。2年後、3年後にはフランスやイギリスでヘラルボニーの作品やプロダクトが見られる世界を実現したいですね。 最高執行責任者(COO) 忍岡真理恵 2009年経済産業省入省、留学を経てマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社で事業戦略などに携わる。その後、マネーフォワードにて事業開発、社長室長、IR責任者を務める傍ら同社のESGやダイバーシティ活動を推進。2023年よりヘラルボニーに参画。米国ペンシルベニア大学ウォートン校MBA(経営学修士)修了。 yoi編集長 高井佳子 入社以来、『ノンノ』『バイラ』『マリソル』『エクラ』と、幅広い年代の女性誌媒体に編集者として携わる。2021年@BAILA編集長に就任、2023年6月より現職。認定フェムテックシニアエキスパート(日本フェムテック協会認定資格1級)。 ■取材を終えて… 「ヘラルボニー」のアート作品が持つパワーはものすごく、障害の有無という概念がこの作品を観るときに必要なのだろうか、逆にそれは自分のバイアスなのだろうか、と考え込みました。そして同時に解決しなければならない社会問題が多くある重みも感じ、今もさまざまな思いが交錯しています。 アンディ・ウォーホルは、キャンベルスープの缶をアートにして世界を変えました。ドラスティックに社会を、つまり人々の価値観を変えられるのは、アートとデザインだけなのではないか、と思うことがよくあります。創業者の松田さんご兄弟や忍岡さんなど素晴らしい方々が想いをひとつになさっていて、今後のグローバルな展開がとても楽しみです。(高井) ■9月22日まで! 「HERALBONY Art Prize 2024 Exhibition」が開催中 「HERALBONY Art Prize」は、世界中の障害のある表現者を対象に開催された公募制のコンペティション。応募期間に集まったアート作品の総数は1973作品! 世界28カ国・924人の中から選ばれたグランプリをはじめ、全62作品が発表&展示されています。詳細は公式サイトをチェック。 会期:2024年8月10日(土)~ 9月22日(日) 時間:10:00~18:00 料金:入場無料 会場:三井住友銀行東館 1F アース・ガーデン(東京都千代田区丸の内1-3-2) 撮影/露木聡子 画像デザイン/坪本瑞希 取材・文・構成/国分美由紀 企画/高井佳子(yoi)