家督を継いだ80代大地主、“兄から訴訟”の過去で「争族はもう嫌だ!」…自身の相続先に大葛藤も〈甥〉を選んだワケ【元メガ・大手地銀の銀行員が解説】
わかってはいるが、やはり実子に継承したい…
真田らは親族への訪問した結果をもとに再度依頼者である三田博氏に対して承継に対する提案を行った。ポイントとしては以下のとおりである。 ・息子は昨年から会社を退職し家業を手伝っており、その才能も認められる ・しかし、独身の息子から先の代への承継を考えると承継先がない ・仮に、今後結婚しても子供が出来る可能性は低い ・面談した結果、長男家の長男(甥)は一家の長としての適性が高いように感じられた ・過去の父親(博氏から見た兄)の振る舞いや、浪費癖などが理由で小さいころから苦労をしており、父親を反面教師として努力を重ねてきている ・甥の家には子供が3人おり、将来的な承継も問題なさそう ・三男家からも承継においては円滑に進むようサポートしたいとの意向があった 三田博氏は少し考えたいと、真田に伝え面談を終了した。 博の本音としては、実子である息子に資産の承継をさせたい。そのため、息子の結婚や子供(孫)の誕生を願ったが、いままで変化もないまま時間だけが経過しているに過ぎない。 自分が承継したときも、父親から後継者として指名されるまでは当然兄が承継するものと考えており、「まさか自分が」との気持であったが、いつしか自分も父と同じ状況になっていた。 代替わりしてからのことを振り返ると辛いことのほうが多かったが、いつしか自分の資産(本来は一族で承継してきた資産)であるとの気持ちも強くなっており、息子以外に手放したくないとの思いが心の中に出てきてしまっているのかもしれない。 一族の資産を合理的に承継するという軸で考えるのであれば、息子に承継することは相応しくないのかもしれない。不動産コンサルタントの真田が提案してきたのは、まさにその点であり、わかっているつもりではあるが、なかなか認めることができない自分もいた。 仮に兄が人格者であり当主としての適性があれば、いまの自分の立場は当然兄が担っていて、その息子である甥が継いでいたことであろう。幸か不幸か、甥は至らない兄を反面教師として見ていて素晴らしい人物に育っている。 一族について俯瞰して考えるのであれば、長く続く可能性が高い選択を行うことが現当主としての役目である。きっと父親も20年前には同様に悩んだことであろう。