町のお客さんの顔を想像しながら。再スタートした古書店『流浪堂』。
東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「か」は学芸大学へ。
今年7月、2年の時を経て学芸大学の地に古書店『流浪堂』が帰ってきた! 東京五十音散策 学芸大学⑤
「『あんぐいゆ』さんも学大に戻ってきましたね。僕もよく伺っていましたし、お客さんでもウチのお店に寄って、本を手にコーヒーを飲みに行く方はよくいらっしゃいましたから、嬉しい限りです」
元バンドマンでかつては本と無縁の生活を送っていたという店主の二見彰さん。20代後半にバンドを辞め、先輩が働く古本屋を手伝ったことがきっかけで、古本の面白さに気づいていった。そして『流浪堂』を2000年に学芸大学駅近くでオープンしたのだ。
「自分の趣味ももちろんあるとは思いますが、それよりも町のお客さんの顔を想像しながら仕入れていますね」
在庫のほとんどはお客さんからの買取と、そんなお客さんたちのことを想像して二見さん自身がセレクトしたもの。昔の雑誌や見たこともないような古書、隠れた名著、絵本、漫画、美術書、詩集、自然、人文科学系の書籍などなど、物欲と知識欲を刺激させられるディープなセレクトがぎっしり敷き詰められた空間は、この学芸大学という場で生きる人々の魅力が反映されている。ただ、建物の老朽化等もあり、2022年3月で一度はお店を閉じた。今年の7月に学芸大学駅の高架下に移転し再オープンすることができたのも、お客さんあってのことだと二見さんはいう。
「元はといえば古本屋も偶然始めたようなものだったので、再開せず、別の道を歩む選択肢もあったとは思うのですけど、ああいった形でお店を閉じてしまうのはなんだか悔しくて。やっぱり通ってくれるお客さんがいたからこそ、この町でもう一度会いたいなと思ったんですよね。お客さんに挨拶するためにも早く再開することを優先してしまったから、まだまだ在庫が倉庫にある状態です。これから少しづつ棚出しをして店内をさらに充実させていくつもりです」
新装開店するにあたり、店内は美麗に。実は本棚にも変化があったのだとか。
「本棚を『箱』のようなイメージで、職人の方にオーダーで作ってもらいました。文庫本や単行本や大判の組み合わせを考えるのは楽しいですし、『箱』の中で一つの世界を作れればと思っています」