菅首相が掲げる「脱炭素社会の実現」 カギとなる洋上風力発電は、日本で広まるのか
日本では、この浮体式に取り組む必要があるとエネ庁の山本氏は言う。 「我が国は海底地形の勾配が急です。欧州は遠浅の海底地形が多いため着床式で展開しやすいのですが、我が国では着床式のポテンシャルは限られてきます。その点、浮体式は、我が国の広大な海域をさらに生かすことができる。実用化に向けて官民で取り組んでいく必要があります」 浮体式の研究について、日本は他国に先行していると話すのは、経産省の審議会「洋上風力促進ワーキンググループ」で座長を務めた足利大学の牛山泉理事長だ。 「日本では福島県沖や長崎県五島市沖ですでに実証実験をやっています。ヨーロッパでも何カ所かやっているが、国としては日本が先行している。浮体式の技術を確立することは日本の強みになります」
では、浮体式の技術が確立されれば、洋上風力発電は大きく展開できるのか。じつは、ほかにも必要な要素がある。風車を組み立てる港湾の整備や、部品の国内調達の問題である。
「港湾整備」と「部品調達」という課題
牛山氏はこう述べる。 「まずは基地港湾の整備が必須です。巨大な風車を建設するための拠点となるからです。クレーンを使って500トンくらいあるものを持ち上げたりするので、杭をどんどん打ち込んで固めるなど、大がかりな整備が必要です。福島で実証実験をやった時も小名浜港の地盤整備だけで10億円くらいかかった。港湾整備はものすごくお金がかかるんです」 こうした整備については、2019年に港湾法が改正された。国が洋上風力発電所設置の基地となる港湾を整備し、埠頭を発電事業者に長期間貸し付ける制度を創設するなどの内容だ。 洋上風力発電所の建設に向けては、部品やメンテナンスの問題もある。部品点数は1万~2万点と多い。現在、7割ほどが海外製だとされる。また、新しい洋上風力発電の入札には欧州の企業も参画している。牛山氏はこれについて「国内の産業が育たないのでは」と懸念を示す。
「全てを日本で作ることはできないにしても、ここの部分は日本でやる、という線引きを明確にしておくべきです。イギリスの場合、『海外の事業者は部品の60%まではイギリス国内に工場をつくって調達しないとそのプロジェクトに参加できない』といったルールを作っています。それがないと、技術面でも運用のトラブルが起きた時にブラックボックスで開示されないということも発生しうる。ロスを避けるためにも、大事な部分は日本で内製化する仕組みを作るべきです。公募のための要件を細かく決めて、それを通して日本の産業を育てるようにしないと海外からの草刈り場になってしまうでしょう」 官民協議会では、産業界から2040年までに国内調達率を60%とする目標が示された。 洋上風力発電は、巨大産業になっていくという期待の声も多い。2030年に洋上風力発電を10GW導入するという政府目標を実現した場合、累積の経済波及効果は約13兆~15兆円、雇用創出効果は約8.5万~9.5万人とする試算もある(日本風力発電協会)。