「丸本歌舞伎」は、歌舞伎の知名度アップのために生まれた!?【古典芸能 “好芸家” のススメ】
「丸本歌舞伎」の相棒・「竹本」
「丸本歌舞伎」は人形浄瑠璃の作品を歌舞伎に取り込んでいるため、人形浄瑠璃同様、物語を義太夫節で語る太夫と、物語の情景を音で表現する三味線が必要不可欠となる。 「丸本歌舞伎」においてこの役割を担っているのが、「竹本」である。 歌舞伎とともに重要無形文化財に指定されている「竹本」は、歌舞伎義太夫とも呼ばれている。しかしそれだけでなく、「丸本歌舞伎」において義太夫節を語る太夫および三味線方、つまり歌舞伎専門の義太夫節演奏者のことを指す。また語ることそれ自体を指すものでもある。 「竹本」の名称の由来は、義太夫節の開祖である竹本義太夫(1651~1714)である。今日でも人形浄瑠璃の太夫は豊竹姓と竹本姓の二つがある。しかし歌舞伎義太夫においては竹本姓のみ用いられる。ここから歌舞伎義太夫の太夫を「竹本」と呼ぶようになった。 かつては「竹本」は「チョボ」とも呼ばれていた。「チョボ」という名称は「太夫が、自分の本に語る個所にちょぼちょぼと傍点を付けたこと」から生まれたとされているが、この語源は諸説ある。 「竹本」の担っている役割は人形浄瑠璃の太夫・三味線方と変わらないようにも見える。しかし決定的な違いがある。それは、歌舞伎俳優が役を演じているということである。 人形浄瑠璃の人形と違い、役を演じているもの自身が声を発する。そのため人形浄瑠璃の場合、作品全編を太夫が語るのに対して、歌舞伎では役の台詞は歌舞伎俳優、それ以外の部分を語る。これが「竹本」の特性のひとつである。
芝居を引き立てる技と機転
人間国宝・竹本葵太夫(たけもとあおいだゆう、1960~)は「竹本」について自ら、「歌舞伎という舞台の『部品』のような存在です。だからと言って、部品がきちんとしていなくては歌舞伎が回っていきません。刺身で言えばわさびのような存在でしょうか。わさびも、良いわさびでなかったらお刺身が引き立ちません」と述べている。「竹本」は歌舞伎を彩る重要な存在でもある一方で、素浄瑠璃のように単体の芸能としては存在せず、あくまでも歌舞伎音楽の一つとして認識されている。 「竹本」の独自性を挙げるならば、その対応力である。歌舞伎には「型」というものが存在する。「型」とは、ひとつの作品における物語のとらえ方や役の解釈、演出、演技手順、大道具、衣裳にいたる、俳優個々の演出の工夫のことである。 多くの役者が独自の「型」を生み出し、今日に受け継がれている。その「型」に対して「竹本」もまた柔軟に対応しなければならない。 葵太夫も「同じ系統であっても、俳優さんが変わると違いますし、同じ俳優さんでも前回と今回で違う場合もあります。(中略)俳優さんも工夫をなさいますから、変化を我々は察しなければなりません。そうしてこちらの方から機転を利かすということをします」と述べている。