コミックアート界のトップランナー米山舞。「アニメとイラストの中間で生きる」
こうしたキャリアが作品にもたらす影響
こうしたキャリアを歩んできたので、現在の作風にもアニメーター時代の影響が出ています。私はアニメーターとして、画面の演出・指示の方針を示すためのカラースクリプトという「絵の設計図」を描く人を目指していました。そのためにいろいろな絵の引き出しをつくり、テクノロジーに関する知識も学んでいたので、イラストでもアニメのシーンを思わせるよな「動き」が出るのだと思います。 独立してからは積極的に個展も開いています。アニメーターからアーティストへと意識がかわったのが、2021年春の個展「EGO」で飾った16組の集合作品「《00:00:00:00》(シーケンス)」が、ロンドンのサーチギャラリーで開催された「START ART FAIR 2021」に選出されたこと。そこでこの作品をオークションで購入してくださった方がいました。 元々アニメの絵や技術は芸術的な価値があると思ってはいましたが、現実的にはアニメの絵はコンテンツのためのものなので、単体では売れないと言われていました。でも、実際に私の作品が売れたことでアニメやイラストがアートとして評価されることがわかったんです。 だからこそ、筆致とかデフォルメの仕方とか、日本のアニメを学んできた自分の育ちを活かした作品をもっと世界中で見てもらって、「こういうものが素晴らしいんですよ」と体現したい。今はそういう「伝えたい欲」みたいなものが作品をつくるモチベーションになっています。 ■いろんなものを「見る」ことの大切さ 35歳になった今思うことは、暇な時間がたっぷりあった学生時代にもっといろいろなものを見ておけばよかったということです。見るものは美術展でも、映画でも、本でも、舞台でも何でもいいんです。幅広いジャンルの作品を、もっともっと見ておけばよかったなと。 なりたいものが決まっていない人ほど、それが見つかるまで宝探しのようにいろいろなものを見たほうがいいです。その中で惹かれたものを照らし合わせていくと「自分らしさ」みたいなものが見つかるはず。私の場合は、アニメを見ていて「パースが凄い」「絵のデッサンがすごい」とか「耽美だ!」と超絶技巧に惹かれました。ぜひ宝探しをして、自分が引っ掛かるものに出会う“事故”を増やしてほしいです。 今の私は、1周回って映像をつくっています。自分がどういうフィルムをつくりたいのか向き合っている最中で、映像表現として“新しい見せ方や楽しみ方・表現方法”を探究したいと思っています。アナログなアート作品も制作しています。 時代の変化とともに作品を表現する媒体は変わっていってもいいのかなとも思っています。アニメとかイラストといったジャンルに留まるのではなく、その間のグラデーションの中で活動してアニメとイラスト・アートの中間みたいなものをつくりたい。それがこの分野を盛り上げる1つのムーブメントになればいいなと思っています。 そうやって頑張っていたら、一緒に盛り上げてくれる仲間が出てきて、50年後・100年後もイラストレーションやアニメーションが続いているかもしれない。そういう勝手な使命感を持ってやっています。
Forbes JAPAN 編集部