「コスパ・タイパ」と失敗を恐れる子が増えた理由は?親は子どもを勝手に枠に閉じ込めたり、先回りしたりしないで
失敗を恐れる子どもが増えた
2024年は年金制度改正や働き方改革関連法の適用、103万円の壁に対する議論など、仕事やお金に関わるさまざまな問題が提起された。子どもたちのお金や仕事に対する価値観も、今後ますます変わっていくことが予想される。子どもたちが生きる未来について、作家で社会的金融教育家の田内学氏と、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮敏郎氏の対談を前編・後編でお届けする。前編では、最近の子どもたちの思考傾向や、今大切にしてほしいことについて語り合った。 【SAPIX YOZEMI GROUP共同代表の髙宮氏】最近の子どもたちは「社会を変えたいけれど失敗はしたくない」「社会に貢献したいけど残業はしたくない」と考える傾向にあるようだ。 田内 学(以下、田内):私は現在、お金の教育を通して社会で今起きていることを、書籍や講演で伝える活動をしています。最近は、日本が長期的に抱えている問題について子どもたちにも考えてほしくて、高校の「公共」で金融分野の教科書作成にも協力しています。髙宮さんはこのところ、子どもたちと接する機会は多いですか? 髙宮 敏郎(以下、髙宮):塾や予備校で生徒と直接触れ合う機会は元々多くないのですが、コロナ禍前は部活の後輩の就職活動をサポートしていました。そこで感じたのが、「社会の役に立ちたい、貢献したい」と考えている学生が増えたということです。ただ、就活相談では残業・転勤の質問ばかり気にする印象もあります。 例えば営業は、相手の課題に対して自分ができることを考え、信頼を組み立ていくという高度でやりがいのある仕事です。しかし、学生にとってはノルマや飛び込み営業のイメージが強く、働くことにネガティブな感情を持っているのです。このあたりは、メディアが伝える情報に偏りを感じます。それでも社会に貢献したいと思っているのは、彼らなりに、このままでは日本が大変なことになってしまうと感じているからかもしれません。 田内:たしかに、この4年ほどで、日本はすごく変わりましたよね。日本財団の「18歳意識調査」でも、「自分の行動で国や社会を変えられると思う」と考える若者が、2020年は18.3%だったのが、2024年は約46%まで上がりました。バブル期を知っている大人たちは、現在を「失われた30年」と悲観的に捉えてしまいますが、 逆に“いい時代”を知らない子どもたちにとっては、現状からは上に上がるしかない、と感じるのかもしれません。 髙宮:選挙権が満18歳以上になったのも大きいようです。高校3年生は、同じクラス内でも誕生日によって選挙に行ける子とそうでない子がいますが、選挙権がある子はどことなく誇らしげで、嬉しそうに選挙に向かうと聞きます。一方で、「コスパ」「タイパ」というように、失敗や無駄をしたがらない傾向も感じます。社会を変えたいけれど失敗はしたくない、社会に貢献したいけど残業はしたくない、ということです。 田内:本来、子どもは失敗や実験を繰り返しながら学んで成長していくものです。しかし、最近は「子どもに失敗させたくない」という親も多いですよね。親自身も傷つきたくないという気持ちがあって、先回りしてしまうように感じます。失敗を経験せずに大人になってしまうため、社会に出てからも過度に失敗を恐れてしまうのでしょう。 髙宮:塾でも、親が「うちの子はこういう子なので」とおっしゃることは多いです。「未熟で幼いので」とか「競争が得意ではないので」と決めつけて、挑戦させずに枠に閉じ込めてしまう。塾は受験本番のリスクを減らすためにあるので、本番までは多少失敗させて、リスクとの向き合い方も学んでいってほしいです。そもそも子どもには、親に見せる姿と外で見せる姿とで違う部分があります。親も意識を変えていく必要があるでしょう。