石破新内閣は「令和のブラックマンデー」に何を学ぶか?
この8月の大暴落とは何だったのか? 「投資の巨人」ウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスの薫陶を受けた阿部修平(投信投資顧問会社 スパークス・アセット・マネジメント株式会社代表)が、その哲学を語り尽くすシリーズ連載、第6回。 ■「神の見えざる手」が消えるとき 藤吉:前回の対談から今日までの間に起きた大きな出来事といえば、2024年8月5日の「令和のブラックマンデー」がありました。この日、日経平均株価が過去最大の下げ幅となる4451円を記録し、4万円台を窺っていた株価は一気に3万1458円まで下がる大暴落となったわけですが、阿部さんは、どのように受け止められたんですか。 阿部:僕は結構、慣れているんです。というのは、スパークスを創業した1989年当時はバブル真っ盛りでしたが、そのすぐ後でバブルが崩壊したんですよね。だから今回の大暴落も「懐かしい場所に来た」みたいな感覚で見ていました。 藤吉:懐かしい……なるほど(笑) 阿部:久しぶりに見た風景だな、と。「大暴落」って何かといえば、結局“買う人が誰もいなくなる”ということなんですよ。本来、市場においては、売りたい人と買いたい人がいて、市場参加者の需要と供給のカーブの接点が価格になる。ところが、市場から買いたい人がいなくなって、売りたい人しかいなくなると、極端にいえば値段はいくらでもよくなる。とにかく売れればいい、現金化できればいい、という状況ですね。 アダム・スミスが言うところの「神の見えざる手」が市場から消えるとき──それが大暴落の場面といえます。 藤吉:今回もそれが起きたわけですね。 阿部:日本を代表するメガバンクの株価に値がつかないような状況が1時間から2時間くらいありましたね。ただ僕はこの暴落はあくまで瞬間的なものと見ていましたし、実際にその通りでした。 これが昭和のバブル崩壊のときは瞬間で終わらず、ずっと下がり続けたんです。 ■バブル崩壊との違い 藤吉:今回のブラックマンデーとバブル崩壊を比べると、どこが一番違うんでしょうか。 阿部:一言でいえばバブル崩壊のときは、その前からずっと日本株に相当な割高感があったんです。株価が割高か割安かを判断する指標のひとつにPER(株価収益率)がありますが、これは株価が1株あたり純利益の何倍まで買われているかを見る指標です。今、日本企業の平均PERはだいたい15倍ぐらいですが、バブル当時は平均で60倍、企業によっては90倍にまで跳ねあがることもありました。実際に企業が出している純利益に対して、株が買われ過ぎていたわけです。 だから当時、アメリカ最大の投資信託ファンドの運用者だったピーター・リンチは「今の日本株は高すぎる。こんな割高な株を買うつもりはない」といつも言っていました。 けれど令和の日本株がバブル期と同じくらい割高かといえば僕はそうは思わない。ここは大きな違いですね。 藤吉:なるほど。今の株価は割高ではない、と。 阿部:目先の株価が4万円に迫る勢いで上がっているから、メディアも含めてみんな「高すぎる」とか言っているけど、実際には、その前が安すぎたんです。背景には“失われた30年”があるわけですが、今、日本株が上がっているのは、日本企業の実態に対して安すぎた株価が正常に戻るプロセスに過ぎません。基調のトレンドが上へ向いている状態ですから、瞬間的に暴落したとしても、このトレンドに逆らって株価が下がり続けるということにはならないんですよ。 だから今回のブラックマンデーについても、「いったいどこまで下がっちゃうんだろう」というバブル崩壊のときのような恐怖感はなかったんです。