石破新内閣は「令和のブラックマンデー」に何を学ぶか?
「どうしても売りたい人」の正体
藤吉:先ほど、阿部さんは「売りたい人しかいなくなった」と仰いましたが、どうしてそうなったんでしょうか。 阿部:僕もそれを考えました。ひとつには、市場には「どうしても売りたい人」がいます。例えば信用取引をやっている人。信用取引というのは簡単に言うと、100円しか持ってない人が200円借金して300円のものを買うわけです。 だから300円のものが200円になっちゃったら、自己資本100円が消える。そうなったら「追証」といって消えた100円分を充当しないといけなくなる。だからそういう人たちは追証を避けるために、相場が下がり始めたら、できるだけ早く売るしかない。そういう人たちの売りがボリュームとしては3兆円分くらいあったんじゃないかな。 でも一番大きかったのは、よく言われることですが、日米の金利差を利用した「キャリートレード」をやっている人たちの動きですね。 主に外国人ですが、彼らは“円を借りて、ドルを買う”。例えば0.5%の金利で円を借りて、そのお金で金利が3~4%つくドル債を買うと、日米の金利の差額がそのまま儲けになるわけです。彼らは円安が続いたこの2、3年はべらぼうに儲けました。ただそうやってキャリートレードが積み上がっていく過程で、彼ら自身も「こんなうまい話がいつまでも続くわけがない」という感覚を抱くわけです。英語でいうと“too good to happen”というのかな。 藤吉:話がうますぎる、という感じですか。 阿部:まさに。円安になって彼らの持っていたドルの価値が上がり、さらに株も上がり続けた。普通は起こらないはずのことがずっと起こり続けていた結果、キャリートレードの残高は5兆円まで積み上がっていたそうです。だからキャリートレードで儲けた人たちも、内心は戦々恐々としていたはずなんです。 藤吉:“何か起きたら、逃げるぞ”と。 阿部:今回の場合、その“何か”というのは、短期的には中東情勢の地政学的なリスクでしたが、中長期的にはアメリカの景気の先行きに対する不安です。その二つがあわさって、戦争が起こったらアメリカの景気は急速に減退するんじゃないか、という危機意識が芽生えた。するとアメリカの金利が下がる。ドルの金利が下がると今度は円が買われる──“unwind”つまりポジションを巻き戻す動きが一気に出てきたんです。 藤吉:それが暴落の口火を切った? 阿部:少し前の日経に書いていましたが、あのとき実際にキャリートレードのポジションが一気に縮小したそうです。要は「いくらでもいいから売りたい」という売りが出た。ですから信用取引の人たちとキャリトレードの人たちが売り切ってしまえば、もう市場には感情的に売る人はいなくなった。 藤吉:だから暴落は瞬間的に終わったんですね。 阿部:そうだと思います。けれどバブルのときは、市場のほぼ全員が「これはちょっと割高すぎる」と思っていて、それが一斉に売りに走った。だから下がり続けたんです。