東大主砲がスマホで綴った“6000字の感謝” たとえ「負け組」でも…笑顔で全うした野球愛
内田さんを支えた家族、指導者の思い
東大野球部の選手は学業に重点を置くイメージがあるのかもしれない。だが、スポーツを通じてチームワークや忍耐力、問題解決力など、社会に通じる重要なスキルも学んでいる。野球の上手さやリーグ戦の結果や内容が、他の5つの大学と比較されることもある。イップスなどを経験した内田さんは「東大のメンバーは失敗してきた野球人生を歩んできた人が多い。大学に来ても“負け組”の野球なんです」と自虐的に笑ったが、本心はそこではなく、人間味があることだった。 ブログを見るとそれがわかる。「他のメンバーも文章も深みがあるんです。重たい文章にはなっているのですが、『そんなことを考えていたんだ……』とか陰で努力していたことがよくわかるんです」。野球をやっている中での苦しみ、勉強との両立、東大野球部だからこそ感じる悔しさ……普段一緒にいても知ることのできなかった素顔や過去が見えたこと。言葉が絆をさらに強固なものとした。 野球を通じて知った喜びも苦悩も、文字にすることで力に変わる。それを「あくまでも僕らしく、笑顔が浮かぶように書きました」。最後は東大野球部の同期への思い、そして両親に向けたメッセージで締めくくられている。2人の元に生まれて野球ができて本当に幸せでした――。 父・佳男さんのことを「でしゃばりな親父なんです」と表現するが、気がつけば、いつもネット裏で見守ってくれた。よく喧嘩もした“鬼コーチ”だった。負けたくない一心から「一番、応援してくれた。僕の原動力。仕事をする背中をこれから追いかけたい」と感謝する。そして、母・美代さんは「いつも味方でいてくれた。いつも僕に自信を与えてくれて、進む道が間違っていないということを教えてくれました」と愛されていることを改めて感じたという。照れ臭いが、本心だった。 自分の実力を見つめ、プロへの思いは断ったが、神宮で大学野球をするという大きな目標に向かって大好きな野球を全うした。現在の野球界の問題点のひとつでもあるのが、子どもと保護者、指導者の距離感。大人が原因で子どもが野球を辞めてしまうケースはまだ多い。内田さんは周りの大人が心の底から、応援してあげられたのではないか。そのような思いにさせる選手だった。 一人の野球少年が周囲や家族に対して、自然に感謝の気持ちを言葉にできる大人へと成長した。信念を持って、打ち込んだ野球に感謝できる内田さんの野球人生に拍手を送るだけでなく、彼が勉強とスポーツを通じて財産を得られるようにレールを敷いてくれた大人たちにも敬意を表したい。
楢崎豊 / Yutaka Narasaki