逆境の13人、夏終え涙 珠洲・緑丘中ナイン敗戦 このメンバーだから、地震を経て強くなれた
●新潟で北信越大会 珠洲から100人応援団 珠洲市緑丘中野球部は7日、新潟県で行われた北信越中学校大会の軟式野球に石川県代表として出場し、「特別な夏」を終えた。初戦で小浜第二(福井代表)に0対2で惜敗。集団避難やグラウンド破損、自宅の損壊など、能登半島地震の逆境を乗り越えながら県大会を制した快進撃が終わりを迎えた。「地震を経て、気持ちが強くなった」と話す主将。珠洲から片道約7時間かけて集まった約100人の応援団は、部員13人を大きな拍手でねぎらった。 緑丘中は7月の県中学校軟式野球大会(北國新聞社後援)で18年ぶりに優勝し、準優勝の額中(金沢市)とともに北信越大会の出場権を得た。額中は6日の1回戦で魚津東部中に敗れ、緑丘は7日の2回戦から出場した。 試合会場となった新潟県刈羽村の源土運動広場野球場には、保護者らによる「応援バス」で生徒20人が珠洲から到着。8日に北信越大会を控える相撲部員の姿もあった。泊まりがけ組も含め、緑丘中ナインのベンチがある三塁側は珠洲の応援団で埋まり、用意された60着の特製Tシャツもなくなった。 応援団長を買って出た野球部OBで会社員の儀谷崇(しゅう)さん(33)の号令で応援団は「燃えろ緑」と、声を上げた。選手13人のうち、9人は3年生。引退すると単独チームの編成は難しくなる。「だから、みんな余計に応援したくなった」。儀谷さんは珠洲の人の心情をおもんぱかった。 初回、エース浅井和人投手(3年)が相手先頭打者に三塁打を浴び、エラーも絡んで先制を許した。四回にも1点を失ったが、六回まで4三振の好投。最終回の七回は澤村駿投手(2年)が締めた。珠洲の誰もが、県大会で見せた驚異の粘りを待った。しかし、あと1本が出なかった。 ●でも「悔しくない」 ゲームセットが告げられると、多くの選手が涙を流した。その中で気丈に仲間を励まし、保護者にあいさつしたのが瀬法司大和主将(3年)。地震後、転校を考えた時期もあったが「やっぱり、このメンバーじゃないとだめだと思った。地震を経て、気持ちが強くなり、今は悔しくない」。堂々とした姿に父公和さん(44)も「人間的にどっしりとした」と地震後の息子の成長を実感した。 自宅が被災した顧問の西村拓朗教諭(23)も緑丘野球部OB。最後に部員へこう声を掛けた。「きょうは悪いところが一つもなかった。珠洲の人たちがこんなに応援してくれるのは、君たちのプレーがあったからだ」。震災から立ち上がった部員たちは、涙をふいて前を向いた。