当事者ではない福永壮志監督が、なぜマイノリティーを描くのか 「アイヌプリ」
「アイヌプリ」は、アイヌ文化を日常の一部として暮らす家族らに密着したドキュメンタリー映画だ。福永壮志監督は「生きた文化は映像には残せても、言葉にならない何かを含めたその神髄は、気持ちが向き合わないと伝えられない」との信念を持って作品を作りあげた。 【写真】インタビューに答える「アイヌプリ」の福永壮志監督 =下元優子撮影
生きた文化を楽しむ 現代のアイヌを撮ったドキュメンタリー
北海道白糠町の食肉処理工場で働くシゲさんこと天内重樹は、先祖から続くマレプ漁や踊りといったアイヌの文化や信仰を息子の基輝らに伝えながら、妻と家族4人で生きている。継承するという気負った考えではなく、楽しみながら続けている。アイヌプリとは「アイヌ式」の意味だ。 福永監督はアイヌを主人公とした劇映画「アイヌモシリ」(2020年)の撮影中にシゲさんに出会い、「マレプ漁」を見学。棒の先にカギの付いた「マレプ」という道具を使ったアイヌの伝統的な漁だ。「シゲさんが日常の中で行っている活動、人としての魅力を映像に収めたかった。一家の姿をそのまま残したい」と19年からドキュメンタリーの撮影を始めた。 「マレプ漁一つとっても、いい大人が必死にサケを追いかけて、楽しそう。気持ちのままにしている活動が、結果的に伝統や文化の継承につながっていることに鮮烈な印象を受けた」。シゲさんの魅力を「純粋でひたむき、信念もあり自然体。信仰も深く祈りも欠かさない。自分からは決して語らない」とよどみなく語る。 家族にスポットを当てたのも、自然の流れだった。序盤では、シゲさん一家の食事風景を淡々と見せる。「シゲさんを追っていたら、その風景に中に家族がいた」。親子の姿も「撮っているうちに物語の核になると考え焦点を当てた」。基輝は素直で自然体、人懐っこい。シゲさんとマレプ漁に行くなどアイヌ文化に関心はあるし父親を尊敬していても、引き継ぐという特別な感覚は示さない。両親も、アイヌとしての活動を押し付けることはない。「シゲさん自身が、文化や活動を復活させようとするのではなく、やりたいからやっている」