菅田将暉、ニューアルバム『SPIN』について語る──「音楽は自分の想いを還元できる場所」
2017年から本格的に音楽活動を開始した菅田将暉が7月3日に3rd アルバム『SPIN』をリリースした。多彩なコラボレーターとの共作や自身で作詞・作曲を手がけた全13曲が収録された最新作について訊いた。 【すべての写真を見る】菅田将暉のニューヴィジュアルを刮目せよ
“生活を彩る”楽曲を作りたい 菅田将暉が、7月3日に3rdアルバム『SPIN』をリリースした。Vaundyとの「惑う糸」や東京スカイパラダイスオーケストラとの「るろうの形代」といったタイアップ曲を含む13曲で構成された本作。個性豊かなミュージシャンたちとのコラボレーションはもとより、楽曲性・歌唱・歌詞──様々な側面から菅田の音楽家としての“深化”を感じられる。と同時に、不思議な軽やかさを纏った一作に仕上がっているのが興味深い。 約1年をかけた『SPIN』の制作秘話に始まり、菅田自身の表現の現在地と未来像について、じっくりと語ってもらった。 ──まずは『SPIN』というタイトルについて教えて下さい。最初からコンセプトとしてこのワードがあったのか、アルバムを作っていくなかで生まれたのか、どちらでしょう? 後者です。想いや目指す方向性としては最初からビジョンがあって、アルバム制作の中で最終的に言語化するなら『SPIN』だろう、と決めていきました。制作自体は2023年の4月頃に始まりましたが、2023年2月に「菅田将暉LIVE TOUR “クワイエットジャーニー”」ツアーファイナルの武道館公演をやらせていただいた後から、今回のアルバムについて考え始めました。僕はライブを生業にするほど数多く経験できていないため、1回1回がチャレンジになってしまうんですが、ずっと一緒にやってきたメンバーと武道館という一つのゴールを迎えて、そのときに各々が感じた「いま足りないものを補いたい」「こういう新しいことに挑戦してみよう」といった共有から始まっていきました。 僕は役者として、役の気持ちや作品が負うテーマを伝える仕事、表現するハブになる役割をずっと担ってきました。そして、音楽においては「これを言いたい・伝えたい」という自分のパーソナルな部分から引っ張り出してくる作り方を行ってきたのですが、『SPIN』においては、外的な要因を重視しました。僕個人ではなくバンドメンバーのグルーブ感を中心に据えて、様々なアイデアを提示してもらいながら形にしていきました。 今までは、例えば「悲しい」をテーマに曲を作ろう、というような“気持ち”をベースにしていましたが、今回は「このワンシーン・ワンカットを作ろう」といった“情景”を目指しました。各曲のパートナーごとにお茶をして、対話をしながらお互いの交わったところを広げていくような作り方を採りました。 ──菅田さんは今回のアルバムでも多くの作詞を手掛けられています。外的な要因に切り替えたことで、変化はありましたか? 「ユアーズ」や「谺する」などのタイアップ系はなかなか言葉が出てこなくて詰まってしまう瞬間はありました。こちらだけで完結するものでもないですし。それ以外は割とすんなり書けた記憶があります。 ──全体を通して聴いた際、本当に様々な歌い方の引き出しを感じました。こうした“歌い方”と“演技”の方法論について、違いや距離感はありますか? どうでしょう、声自体は変えようがないですからね。ただ、今回は今まであまりやっていないレンジ(声域)をたくさん試しています。あとは、先ほどお話ししたグルーブ感にも通じますが、「ステージ上でノレるような歌い方」はテーマにしていました。いわゆる“ザ・ロックバンド”のようなボーカルがフロントマン的に引っ張るような歌い方だけではなく、お客さんも一緒に漂えるようなバランスを目指したところはあります。 自分自身がツアーをやっていて、「虹」や「まちがいさがし」のような曲ばかりだとどうしても続かなくなってしまうんです。二郎ラーメン20杯みたいな感じになってしまうから(笑)、野菜だったり副菜のような楽曲も作りたい。といったイメージです。白米だけで攻めるのではなく、玄米も混ぜていきましょう、そんな精神でした。 ──ヘルシーな感じといいますか。 そうですね。「ヘルシー」は一つ念頭にあったかもしれません。それこそアルバム制作のスタートに「もっと軽やかな曲が欲しいよね」があったので。これは僕の憶測ですが、きっとライブに来て下さる方もその方が楽しいのではないかという想いもありました。自分自身が観客としてライブに行くときも、必ずしもずっと浸りたいわけではないです。その瞬間瞬間の楽しさを反映できるような、決まりすぎていない曲を作りたかったんです。 ──個人的な感覚ですが、『SPIN』に“聴きやすさ”を感じたので、いまのお話はとてもしっくりきます。 それは嬉しい感想です。夜中にひとりでしんみりしているときに聴いて涙するというよりも、日中にドライブしているときに車中で流れているくらいの“生活を彩る”楽曲を作りたいと思っていましたから。改めて振り返ると、いままでは夜っぽさが多めだった気もしていて。 ──それは、時代的なものやミュージックシーンの流れも影響しているのでしょうか。 自分ではそこまで意識はしていないですが、リファレンスにしているものは近年のものが多いので、そういう意味では多少影響はあるかもしれません。 ──『SPIN』には多種多様なクリエイターが参加されていますが、菅田さんがいま惹かれるクリエイターとはどんな方々でしょう? “怖さ”を持ったかな。話をすると皆さん優しい人ばかりですが、「これはどうやって作ったんですか?」と容易に聞けないような孤高の人に惹かれるかもしれません。あとは、楽しんでいる人が好きです。ファッションでいうと、服を作ることを仕事にしながら自分自身も着ることが好き、という方が気が合うので。音楽にも作るのが好きな人と自分がプレイするのが好きな人がいますが、僕は好きなのは後者のタイプだと思います。 『SPIN』では、ジャケットを写真家のRyu Ika(中国・内モンゴル自治区出身の女性作家)さんにお願いしています。お会いしたときに「写真なんて誰でも撮れるから、私は撮った後にどう作品にしていくかが勝負だと思っています」と話されていたのですが、その言葉に潔さとある種の怖さを感じました。同世代の友人のような親しみやすい雰囲気を纏いながら、母国語ではない言語で凄みのある言葉を操るギャップが魅力的でした。 ──ちなみに、菅田さんは日頃どうやってアンテナを張ってクリエイターとの出会いを作っているのでしょう。 自分だけでは到底掘り切れないので、周囲の方々に助けていただいています。Ryuさんとの出会いを作ってくれたのはスタッフ陣でしたし、自分のアンテナだけだと結局自分の好きな界隈しか見ないから拡がりに限界があると考えていて。例えば「自分の好きな人がいまハマっているもの」といったように、“好き”をつないで少しずつ外に向かっていくようには意識しています。人が好きなものについて熱く語っているのは聞いていて面白いですしね。先日、オカモトレイジくん(OKAMOTO'S)に会ったら、なぜかヨーヨーを装着していて「いまこれがキているんだ」と延々とヨーヨートークを聞かされたのですが、そのうちに自分も興味が出てきて、ギアとしてカッコよく思えてきてしまいました。 ──菅田さんは俳優業を一時期休業されていましたが、アルバム制作において何かしら影響を及ぼした部分はありますか? 生活環境が変わっているため、無関係ではないと思います。ただ、先ほどお話しした通り今回は外的な要因をメインに据えて制作していましたから、そこまで関与していない気もします。とはいえ、歌詞を書いているときに浮かんでくる情景や言葉選びに変化はありました。 ──演技も音楽も心を使うお仕事であり表現ですから、菅田さんがどうやってバランスを取られているのかは気になるところです。本作のテーマの一つだった“ヘルシー”には「健康」という意味もありますし。 実は、自分でもどうやっているのかわからないんです。いつもギリギリのところで保っている気はしていますが、ひとつあるとしたら、考えすぎないことかな。 『SPIN』というタイトルには「代謝」「循環」という意味もあります。爪は長くなったら切るものだし、生命も生まれて亡くなって……を繰り返すものなので、役者業もその枠組みで考えられるのではないかと思うんです。細胞は3カ月で入れ替わるというけれど、3カ月同じ役をやっているとやっぱり若干別の人間になってくるんです。なりきったところで次の役に行くというサイクルの繰り返しなので、脱皮はしていかないといけない。となると、自分自身が特別意識しているわけではないけれど、常に新しいものを入れていくと同時に、忘れてもいっている気もします。家族であったり、バンドのように覚えておきたいことだけを置いておいて、他はどんどん代謝していっているんでしょうね。