ネガティブな性格を科学で変える? オックスフォード大学教授の研究が話題
あなたは明るい性格、それとも暗い性格? もちろん人間誰しも様々な面があるが、ついつい暗い出来事ばかりを気にしてしまう、あるいは、明るい出来事に目が行きやすい、など基本的な傾向は誰もが持っている。そんな性格の秘密に最新の脳科学と心理学から迫った本、『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋刊)が話題だ。 ■偉人が残したポジティブな名言 著者で英国オックスフォード大学のエレーヌ・フォックス教授いわく、「楽観的か悲観的かという性格がどこから生じるのかを長年追究してきました。楽観的な性格の人は粘り強く人生に取り組めると言われます。チャーチル(元英国首相)は『成功とは、失敗を重ねても熱意を失わない能力のことだ』と言ってどんな逆境もはねのけ、偉大な政治家としてその名を留めました。発明家のエジソンは電球の試作の失敗が1万個に達したとき、『失敗したのではない。うまくいかない方法を1万通り見つけただけだ』と言って、ついにはフィラメントを発明しました」と、歴史の偉人を例にとって説明している。 ■寿命にも影響を与える人の性格 偉人の名言だけでなく、調査としても実証されている。1930年代に修道院に入った全米各地の修道女180人の日記を検証。『前向きな言葉』と『後ろ向きな言葉』が出てくる頻度を60年にわたって追跡し、修道女たちの寿命との相関関係を確認。その結果、『前向きな日記』を書いていた修道女は、そうでない修道女に比べて10年以上長生きしていた、と報告されている。一方、悲観的な性格の人は、その悲観さが行き過ぎると不安や抑うつといった症状にまで進んでしまう危険があるという。明るい性格か、暗い性格かという違いで人生全体の成否が変わってくるならば、「まあ性格だから」と片づけられない問題ともいえそうだ。 ■「側坐核」と「扁桃体」のバランス では、こうした性格の違いはどうして生まれるのか。長年の研究から、そのプロセスは少しずつ明らかになってきている。私たちの脳には、気持ちよさなどのポジティブなことに反応する「側坐核」という部位を中心としたネットワーク、いわば「楽観脳」と、危険などのネガティブなことに反応する「扁桃体」という部位を中心としたネットワーク「悲観脳」が備わっている。この2つの働きのバランスによって、性格が変わってくる。では、楽観脳と悲観脳の強さはどうして決まるのか。現在オックスフォード大学感情神経科学センターを率いるフォックス教授は、セロトニンという脳内の気分の安定にかかわる物質をコントロールする『セロトニン運搬遺伝子』が影響していると説明する。 2009年の研究で、フォックス教授はこの遺伝子が強いタイプの人と弱いタイプの人を比較。弱いタイプの人のほうが、暴力をふるっている様子などのネガティブな画像に強く引き寄せられる、悲観的な特徴を強く示した。つまり、性格も遺伝で決まっていて、この遺伝子が強い人は最初から楽観的、弱い人は最初から悲観的だという仮説が生まれた。当時この研究は、大いに話題になりマスコミの注目を集めている。