ガザに「最終的解決」を許してはならない
「……マスク三題噺ですか?」と言われた。 確かにここ3週、サンダーマスク、感染予防のために着用するマスク、イーロン・マスクと、マスクを話題に取り上げている。もう少し続けるか。例えばタイガーマスクからプロレスの話に引っ張るとか。 いや、うまく話が展開できないな。「ゆけ、ゆけ、イーロン、イーロン・マースークー」と、アニメ「タイガーマスク」の主題歌の替え歌にはハマるんだけど。 上映中のアニメ映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(2024年、黒川智之・アニメーションディレクター)を観てきた。長いタイトルなので、以下通称の「デデデデ」を使う。 それぞれ2時間ほどの前編、後編が3月と5月に分けて公開という上映形態なので、前後編の両方を観た方がどれほどいるか――興行成績はいまひとつ伸びていないようなのだが――私は、「これ、よくぞ今作ったな」と打ちのめされた。 今という時代を思いきり握りしめたグーで力いっぱい殴っているような作品だ――この形容は昨年末に観た「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」でも使ったが(「ゴジラとトットちゃんと鬼太郎と」)、こういう、本気で今の時代状況と切り結ぼうという作品が製作され、公開されるのは、今の日本社会にとって希望と言っていいんじゃないかと思う。前編を再度上映している映画館もあるので、前編と後編、映画館に2回通う価値はあると言っておく。 原作は浅野いにおのマンガ「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(小学館刊行)。2014年から2022年にかけて「ビッグコミックスピリッツ」誌に連載され、単行本全12巻にまとまっている。 舞台は主に東京。中心になるのは、小山門出(こやまかどで)と中川凰蘭(なかがわおうらん、あだ名は“おんたん”)という2人の18歳の女の子だ。少女というには大人になりつつあるが大人と言い切るには未熟な2人――物語は2人が高校3年生の時から始まり、大学1年の夏休みでクライマックスを迎える。 ●これは今、ガザ地区で起こっていること?! この世界では3年前に突如巨大な「侵略者」の宇宙船が東京にやって来た。アメリカは侵略者の宇宙船に「A爆弾」で攻撃をかけ、多くの人が死亡する大惨事が発生。都内の一部地域は「A線による汚染地帯」と化している。 その後、侵略者の巨大宇宙船、通称「母艦」は東京上空を浮遊し、そこから時折小さな船が出てくるようになる。乗っている侵略者は幼児のような身長・体形で、潜水服のような顔の見えない服をまとっている。日本政府は新兵器を開発して、出てくる小さな船を攻撃している。一部地上に降りた侵略者は母船に戻るでもなく、人類を攻撃するでもなく、A線汚染地帯を中心に隠れ住むようになる。そんな侵略者を自衛隊は発見次第容赦なく“駆除”している。日本政府はやがて侵略者の機器の分析から「F」という新しいエネルギー源を手に入れて、何事かを画策するようになる。 物語はかどでとおんたんの、どうでもいい日常ストーリーとして進行する。が、その日常の背後に違和感と恐怖が張り付いている。母艦と侵略者。怪しい動きをする日本政府。政府と結託し、爽やかな笑顔で人々を惑わす兵器会社の社長。そして、おびえや正義感からカルト化する人々――。 途中から、侵略者の側の事情が描かれるようになり、一気に複雑な構図が見えてくる。侵略者もまた、かどでやおんたんのようにうだうだの日常を生きる「普通の侵略者」(奇妙な形容だが、こう形容する以外にない)だった。しかもろくな説明もされずに「本国」から送り込まれたらしい。やがて、8年前に10歳のかどでとおんたんが、調査に来ていた先遣隊の侵略者と接触していたことが明らかになる。そして、見えてくる世界の終末――。 私が最初「うわっ、これは恐ろしい物語だ」と思ったのは、シチュエーションがまんま2024年現在のパレスチナ自治区ガザの現状と重なったからだった。