時給「1500円」でも集まらない、マンション管理員「人手不足」の惨状…150万円をかけても集まるのは一桁、「ぼったくり」とクレームも
マンション購入の「意外な盲点」
マンション価格の高騰が治まらない昨今。購入希望者は頭を悩ませていることと思いますが、じつはマンション購入で重要なのは価格だけではありません。 【マンガ】5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お知らせ” 長く住み続ける家として考えた場合に“意外な大誤算”となり得るのが、じつは管理費や積立金の「予測できない高騰」です。今回はこれについて著したいと思います。 労働者の確保や物価上昇への対策として、政府は2023年から北海道、東京都、大阪府、愛知県、福岡県などの主要都市の最低賃金を順次引き上げし、これにより全国の平均時給が過去最大の1002円のベースアップとなりました。 物価に応じた賃金のベースアップは当然の措置ではありますが、一方でこの賃金引き上げに不満を漏らすのが、中小・零細企業の経営者や個人経営の飲食店店主などでした。人件費にこれまで以上のお金がかかり、また募集したとしても、そもそも“人気のない職種”には人が集まらないからです。 この悪循環に陥っているのがマンションの管理員や清掃員の人手不足です。それもかなり深刻で、最低賃金での募集では誰も集まらず、首都圏に限って言えば多いところで時給換算2000円程度と、東京都の最低賃金である1113円をはるかに上回る賃金で募集をしているところもあります。 管理会社の採用担当者によれば、150万円をかけて1ヵ月間募集をしても応募はせいぜい20件程度で、そのうち採用になるのは5件~7件。「管理員を一人採用するのに20万円かかった」という管理会社の採用担当者の嘆く声をよく聞きます。
管理委託費「値上がり」のワケ
管理員ひとりに支払われる時給は、東京都内では1300円~1500円が大体の相場のようですが、そのほかに交通費や各種保険料、ユニホーム代金、福利厚生費用などの間接費用、計画年休制度による有給補償費用、有給休暇を取得した際のアテンドの人件費、高齢者の清掃員への介護保険の一部負担、定着率を上げるための昇給、報奨金の支給など「見えないお金」がかかっています。 その見えない費用などがプラスされて、管理委託費の『管理員業務費用』は時給に換算すると2,000~2,500円になるといわれています。 清掃員や管理員を雇う際はこれらが採用する管理会社のコストとなり、それゆえマンションの住民ひとりひとりが支払う管理費が値上がりや高騰にもつながっているのです。 なかには、マンションの管理員から時給を聞き出した居住者が、管理委託契約書の業務費用と比較して「時給2,300円になっているが、管理会社が1000円以上もぼったくっているんだろう!」とクレームを入れる場合もあり、その相談を受けることも多々あります。 管理委託費の高騰で管理費会計の収支状況が厳しく、一見した限りでは、赤字予算ではないようですが、しかし実際には、繰越金で収支がやっとプラスになる『単年度収支は赤字』のマンションも多くなってきているのが現実です。 近頃では管理委託費の値上げに関して組合の協議が整わず、結局は管理会社が撤退せざるを得ないマンションも多くみられます。 国土省のマンション総合調査(H30)では、約73%が「分譲時に分譲業者が提示したマンション管理会社のまま変更をしていない」と報告されており、このことから管理委託費について十分に話し合ったり、組合がきちんと機能し住民同士のコミュニティが内製化されていると思われるマンションは少ない状態と言えるでしょう。 複数の同業他社から見積をとり、業者を競わせてコスパのいい管理会社に変更するマンションもあり、約21%のマンションが「分譲時に分譲業者が 提示したマンション管理会社に委託していたが、その後現在の管理会社に変更」と回答しています。 しかし、私の知っている限りでは、2年間で5回も管理会社を変えたマンションもありますが、ほとんどが管理委託費の高騰についての相談で、「管理会社を変更したい」という相談はほぼありません。 こう記したのには理由があります。実は管理会社の変更は非常に難しいのです。というのも管理委託費の削減を目的にリプレイスをしても、サービスの品質が下がり『安かろう、悪かろう』になっては本当の目的にたどり着くことができないからです。 では、この高騰にどういった対策を講じればよいのでしょうか? その一例を<【後編】マンションの「自主管理」物件はこんなにヤバい…役員が「組合費を横領」、大規模修繕ができずにさらにお金を徴収するハメに>でお伝えします。
松本 洋(マンション管理士)