バレーボール界に一石投じたエド・クラインの指導美学。「自由か、コントロールされた状態かの二択ではなく、常にその間」
日本に不足しているユース年代のトレーニング設計
――クライン監督は欧州のクラブでの豊富な指導実績を持ち、これまでさまざまなアクションや提言もしていますが、日本の選手が海外のトッププレーヤーと互角に戦うために、フィジカル面ではどのような取り組みが必要だと考えていますか? クライン:代表やSVリーグのチームにはハイレベルなコーチがいるので、何も問題はないと思いますが、ユースのカテゴリーでは基本的なフィジカルトレーニングが足りていないと思います。日本ではユース年代はクラブではなく学校の部活でバレーボールをしていて、学校の先生がコーチをしています。ですから、ケガ予防やパフォーマンスを向上させるためのストレングス&コンディショニングについて、ほとんど知識を持たない先生も少なくないと思います。 ヨーロッパではストレングス&コンディショニングの取り組みをより早く始めるので、17歳で自身のポテンシャルの80パーセントぐらいまで到達して、チャンピオンズリーグでプレーしている選手もいます。重いウエイトを上げるだけではなく、13、14歳ぐらいから体のバランスを整えることに取り組み、体の可動域を広げ、強度を整えて関節を強化します。そして16、17歳ぐらいからウエイトに取り組みます。 日本で以前、大学を卒業した22歳の選手に話を聞いた時に、「人生で1回ぐらいしかバーベルを上げたことがない」と言っていたのには驚きました。22歳であれば、体の強さをしっかり維持してほしいですし、ケガ予防の観点でも非常に大事な部分です。 ――そんなに差があるのですね。ケガ予防の観点からは、どのようなことが不足していると思いますか? クライン:大学のカテゴリーで肩や膝、腰のケガをしている選手たちが、痛み止めだけを使って解決しているケースをよく見ます。痛み止めは解決策にはなりません。大切なことは、体のバランスの中で歪みが生じている部分を治すことです。これは強調したいのですが、毎日スポーツをすることは、体にとって健康的なことではないです。我々の体は毎日100回ジャンプするように設計されていないし、肩はボールを200回たたくためにデザインされていません。しかし、現在のスポーツ科学では、どうやったらケガを防げるかは解明されています。その知識が、まだ日本には浸透していないと思います。 もしも中学生、高校生、大学生と体のバランスが悪い状態で過ごして、そこからヴォレアスに入って私のところに来た場合、ダメージがありすぎて治せなくなっているケースがほとんどです。ですから若い年代からのケガ予防が重要だと思いますし、できれば毎日20分間は予防のためのトレーニングをやる必要があると思います。それをやることで、長期的な体の健康が保証されます。これは貯金と似ていて早い段階でケガ予防を始めれば、ケガなくキャリアを終えることができます。食事も睡眠もケガ予防も、とにかく早く始めることが重要だと思います。